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『離婚したので、すべて置いて辺境にきました──夫の浮気も介護も、さよならで!』  作者: 夢窓(ゆめまど)


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新しい世界へ

辺境伯家からの“即日採用”と、屋敷のさらなる地獄


翌日の午前。


ナンシーが応募文を送って間もなく、

伯爵夫人の別邸の玄関に、

一台の早馬が駆け込んだ。


扉がノックされ、執事が封筒を差し出す。


「ナンシー様、至急のお手紙が届いております」


「まあ……もう?」


インクが乾いたばかりの応募文を送ったのは数時間前。

ナンシーは驚きながら封を切った。




✦ 辺境伯家からの返事


『このたびのお申し出、

ぜひとも当家にお越しいただきたく存じます。


辺境は人手不足ゆえ、即日のご返信となりました。


服や身の回りの備品は、

王都ほどではありませんが手配可能です。


どうか至急、こちらへお越しください。

住まいと食事は準備いたします』


最後には丁寧な署名。


「……まあ。

こんなに早く決まってしまうなんて」


胸の奥がふっと明るくなった。


伯爵夫人が目を細める。


「ほら、ごらんなさい。

必要とされる場所はちゃんとあるのですわ。

準備なさいな。明日には出発できますよ」


ナンシーはそっと手紙を胸に抱いた。


(ああ……逃げ場所が、本当にできたのね)




そのころ──夫の屋敷はさらなる大修羅場に


夜中に徘徊した姑は、

朝になってもナンシーを探し続けていた。


「ナンシー……ナンシー……?

おしめ……かえて……?」


寝室の扉を爪でひっかき、

アンの隣に座り込んで泣き出す。


アンは、青ざめて叫ぶ。


「いやあああああ!!

連れて行ってくださいまし!!

この家から出してくださいまし!!」


夫は頭を抱えこむ。


「母上、ここはアンの──いや、その……!

とにかく落ちついてください!!」


姑は床に転がりながらバタバタし、

アンのドレスの裾を離さない。


「ナンシー……じゃない……

おまえ……ナンシーじゃない……!」


アン

「違いますわよ!!わざわざ言わなくても!!」


ヘイリー

「どうしてナンシーがいないだけで……こんな──!」


(※全部あなたのせいです)


そこへ、

使用人が震えながら伝える。


「旦那様……使用人たちの間で、

“奥様が倒れて、病院に運ばれた”という噂が広まり……

皆、動揺して……辞める者も……」


夫が顔色を失う。


「な、なぜだ!?

ナンシーがいないくらいで……!」


アンが泣きながら叫ぶ。


「だって!!

ナンシー様がいないと!!

お義母様の面倒見れる人なんていないじゃないですか!!

こんな……こんなの、聞いてませんわ!!」


「ナンシー……ナンシー……ッ」


ヘイリー

「……いない……

ナンシーは……もう、この家にはいない……?」


その現実が屋敷の空気をゆっくりと冷やし、

静かに腐らせていった。




一方そのころ、ナンシーは──


別邸の鏡の前で、

旅支度のドレスを整えながら、

こっそり微笑んだ。


(あとは逃げるだけ)


(私の人生を取り戻すために)


伯爵夫人が扉をノックする。


「ナンシー様、馬車の準備が整いました。

辺境は遠いですが……あなたならきっと大丈夫ですわ」


ナンシーは深く礼をした。


「……はい。

行ってまいります」


新しい人生へ。



地獄の屋敷へはもう、

二度と戻らない。




伯爵夫人の離婚サポート宣言



旅支度を終えたナンシーが玄関へ向かおうとしたとき、

伯爵夫人が静かに近づき、その手を取った。


「ナンシー様。

あなた、まだ一つだけ心配していることがあるでしょう?」


ナンシーは目を伏せる。


「……離婚のこと、ですわね」


伯爵夫人はふっと微笑んだ。

その笑みは優しく、しかしどこか鋭さを含んでいた。


「ええ。

その件は、わたくしに任せてくださいませ。

あなたが辺境で落ち着いた頃──

弁護士から正式な書類を旦那様に届けさせますわ」


ナンシーは息をのんだ。


「わたくし、貴族同士の離婚手続きを何件も見てきましたの。

“もぎ取れるものは全部もぎ取る”のが心得ですわ」


どこか痛快な声音だった。


「旦那様が恋人といた件──

あれはもう社交界中の噂になっています。

証人も十分。

旦那様の側に勝ち目はございませんのよ」


ナンシーの胸に、

ゆっくりと温かさが広がる。


伯爵夫人はナンシーの両手を包み込んだ。


「あなたは十分尽くしました。

義母の介護まで背負って……

あの家は、あなたなしでは一日たりとも回らないでしょう」


恐縮して俯くナンシーに、

伯爵夫人はさらに優しく囁く。


「ですから、安心してお行きなさい。

もう“戻る家”だなんて思わないこと。

あなたはもう、奥様ではなく──

自分の人生を生きる女性ですもの」


ナンシーの目に涙がにじむ。


「……ありがとうございます、奥様。

わたくし……本当に、逃げても良いのですね」


「逃げるのではありませんよ」

伯爵夫人はしっかりと首を振った。

「婚家から解放されるのです。

そして、もう二度とあの屋敷に縛られないために──

書類はわたくしが整えておきますわ」


ナンシーは深く礼をした。


「本当に……本当に、ありがとうございます」


伯爵夫人はすっと背筋を伸ばし、

凛とした声で告げた。


「さあ、行きなさい、ナンシー様。

辺境はあなたを必要としているわ。

離婚の成立は──

こちらで完璧に仕上げて差し上げますから」


ナンシーは涙を拭き、

馬車へ向かうために一歩踏み出した。


(もう振り返らない。

これはわたしの、再出発だわ)






◆そのころ、屋敷では──


アン

「いやああああ! 来ないでえええ!!

なんでナンシー様いないんですの!?

私が世話するとか無理ですわ!!」


姑(オシメを振り回しながら)

「ナンシー……!ナンシー……!」


ヘイリー

「待ってくれアン!! 母上!! 一度に来ないで!!

なぜだ……なぜだ……

ナンシーがいないだけで……!!?」


(※全部あなたのせいです)


屋敷の混迷は、

ナンシーがいなくなったことでさらに深まっていった。


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