二十六話、桃香の記憶
〔レイアール家〕
アリシアは椅子に座り皆に向けて語っていた。
自分の前世について。
「私の前世は雨宮桃香と言う名前だったの、そしてアスナの前世の名は雨宮明日奈、ここまで言えば私とあの子の前世の関係が分かるかしら?」
「姉妹って事?」
「そう、私はあの子の姉だったの…ただその記憶は私には残っていない、記憶がない私が姉と名乗るわけにはいかないしあの子にはこの事は黙っていたわ」
恐らく心の底では前世の時からずっと自分には家族などいないと思っていたアスナにこの事を言えば余計にその心を傷付けていただろう。
自分の前世の姉が消え去ってしまったのだと知って。
「アリシアさんに記憶がないならこの事をアスナを救うきっかけになんてならないんじゃ?」
家族を求めているアスナに桃香としての記憶があるアリシアなら想いを届ける事が出来るかもしれない。
しかし記憶がないアリシアでは想いを届けることなど不可能だ。
セツナはなら意味がないのでは?と言う。
「方法はある、死後の世界と言うものがあってね、そこのどこかにいるはずよ、私の前世の記憶を持った存在ゼシリアがね」
ゼシリアかつてアリシアが悪に堕ちた時の名そのゼシリアは桃香としての記憶を持っているのである。
「死後の世界に入るには神の許可がいる、少し会って来るわ」
アリシアはそう言うと目を瞑り眠り始めた。
その意識は神の世界に飛ぶ。
〔神様空間〕
アリシアが目を開けると神が立っていた。
「聞いていました、あの子を救うきっかけとなるかもしれない桃香としての記憶を求めてゼシリアに会いたいのですね?」
「ええ、お願い出来るかしら」
「もちろん、あの子が元のあの子に戻りアナスタシアを倒す事は私も望む所ですから」
神はそう言うとゲートを開く。
「ゼシリアの元への直送便です、彼女との対話はあなたが行ってください」
「ありがとう」
アリシアは神に感謝するとゲートを通ってゼシリアの元に向かう。
〔死後の世界〕
更に空間を移動したアリシアは真っ暗な死後の世界に降り立った。
生者であるアリシアにはこの場にいるだけでも寒気がする。
「あら?誰かと思えば私じゃない」
アリシアが周囲を見渡しているとかつての孤児院の部屋を模した空間でベッドに腰掛けるもう一人の自分がいた。
「ええ、久し振りね、ゼシリア」
「ええ、久し振り、何をしに来たの?」
「実は…」
アリシアはアスナの事を話す。
桃香としての記憶を持つゼシリアは明日奈がアスナとして転生していたことに驚きそして悪に堕ちてしまったと聞いて悲しそうな顔を見せた。
「分かったわ、明日奈は私の大切な妹、あの子を救うために桃香としての記憶が必要ならあげる、ただし約束しなさい、あの子との戦いで負けてここに来てはダメよ、必ず生きなさいアリシア」
「分かってる」
「明日奈を頼んだわ」
ゼシリアは微笑みながら手を差し出す。
「うん」
アリシアも微笑み返しその手を取る。
するとゼシリアから桃香としての記憶が流れ込んで来てアリシアは桃香としての記憶を取り戻して行った。
「…」
アリシアは桃香としての記憶を見て幼い自分と明日奈を孤児院に置いてどこかに行く両親の姿を思い出した。
これがアスナが家族と言うものを信じなくなったきっかけであろうと思う。
「正直言って私も親に捨てられたとは思ってる、あの子がそう思うって家族を信じられなくなるのは仕方ないわよ、アリシア」
「そうね、でも親は信じられなくても姉なら信じてくれるかもしれないから」
「そうね、それじゃ行きなさい」
「ええ、ありがとう、ゼシリア、さようなら」
「ええ、さようなら」
ゼシリアはアリシアと最後に手を繋ぎ二人は別れた。
「どうか…アスナが救われますように…」
ゼシリアはアスナの心が救われる事を願い自分と明日奈が写る写真を手に取ると抱きしめた。




