第175話 迂回機動
ノアがクルック城に帰ると、イングリッドが雪祭りでのコンサートを終えて帰ってきたところだった。
「あっ、お帰りノア。どうだった? 鬼人の里の様子は?」
「イングリッド、頼みがある」
「?」
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「……なるほど。弓騎兵用の弓矢ね」
「ああ。エルザの開発した弓矢は歩兵用でな。ちょっと勝手が違うらしい(それでも充分取り回しは優れているが)」
ノアがエルザの開発した弓矢を見せる。
「弓騎兵の力を最大限活かすにはもっと強くする必要がある」
「分かった。鬼人用に開発してみるね」
イングリッドはエルザやファウナと一緒になって弓騎兵用の弓矢開発に取り組む。
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冬が明けて春が来た。
寒さで凍える季節から、うららかな陽気と共に戦いの季節がやって来る。
ノアは河が寒さで渡れなくなる少し前から、ディーシュ族の里入りして、情報収集していた。
種々の情報を照合すると、悪鬼の大軍が河を越えてディーシュ族の里にやって来るのは明らかだった。
冬のうちにアークロイで作り持ってきた大量の弓矢と駿馬を連れて来れるだけ連れてきて、ディーシュ族の騎戦・射撃スキルの高い者達に配備した。
河が渡れる温度になると、先手を打って悪鬼達の動向を探る。
斥候能力の高い騎兵を河の向こうにばら撒き、なるべく広い範囲を偵察させた。
【偵察騎兵の図
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すると以下のことが分かった。
悪鬼達は軍を三つに分け、河から最も近い村に集結しつつあること。
この情報を受け取ったノアは、悪鬼達は三つの渡河地点から一斉に三軍を渡らせるつもりだと読み、それぞれの渡河地点に選りすぐりの弓騎兵を配置して、防御につかせた。
悪鬼が河を渡ろうとしたら弓矢で阻止し、河を越えてきた悪鬼は一匹残らず殺すように命じた。
ノア自身は砦の近くの渡河地点に陣取り、敵の動きを窺うことにした。
というのも、この地点を狙っている悪鬼達は斥候によると攻城兵器を有しているとのことだった。
人間では扱いきれないほど巨大な破城槌やバリスタ、カタパルトが夥しい数、カーゴフの村に運び込まれているとのことだった。
この攻城兵器でもってこちらの砦を攻略するつもりなのは明らかだった。
砦が落とされれば、ディーシュ族はおろかアークロイの領土そのものが脅かされることになる。
そうなれば守らなければならない領域が一気に増えて、守りきれなくなる恐れがある。
ノアは砦に陣取り、偵察を絶えず放ち続け、悪鬼達が動き出すのを待った。
【初期配置の図
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/913007/blogkey/3622408/】
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悪鬼達が動き出した。
カーゴフの村から武具鎧を纏った悪鬼軍一万が出陣し、最後尾には攻城兵器を荷車に載せて、ガラガラと車輪を軋ませながら運搬する攻城兵達が付き従っているという。
ノアは迂回して攻城兵を叩く作戦を実行することにした。
まずはこちらから河を越えて、騎兵の高速機動で森を迂回し、敵の側面に出て最後尾にいると思われる輜重隊を叩き、攻城兵器を破壊する。
それができなくとも射撃で一定の打撃を与える。
その後は悪鬼達を怒らせて、こちらがあらかじめ配置した弓兵達のいる森に誘き寄せる。
狭い森に入ったところで伏兵の弓兵により、撃滅する。
これがノアの立てた作戦の概要だった。
【作戦地図
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/913007/blogkey/3622417/
見にくい場合はこちらでどうぞ↓
第一段階:初期配置
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/913007/blogkey/3622408/
第二段階:奇襲
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/913007/blogkey/3622466/
第三段階:陽動
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/913007/blogkey/3622467/
第四段階:待ち伏せ
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/913007/blogkey/3622472/】
ノアは残る二つの渡河地点の弓騎兵達に可能な限り柵を設けて防御力を高めておくこと。
予定通り敵が来れば弓射撃で渡河を妨害すること。
渡ってきたら一匹残らず殺し、大軍を渡してしまった場合は打合せ通りの場所に撤退して誘き寄せ、殲滅すること。
この三つを言いつけて、河を渡った。
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この日のために軽騎兵として訓練を受けてきたディーシュ族の戦士達は、緊張の面持ちで馬の手綱を引きながら、馬の蹄を浅瀬に浸して駒を進める。
馬の横腹まで水に浸けながら河を渡り切ると、ブルブルと馬に身震いを一つだけさせ、すべての兵士が渡り切ったところで鞭を打って、風を切りながら走らせる。
ディーシュ族の鬼人達はステータス通り、馬の扱いはみんな上手いもので、一人も脱落者を出すことなく速やかに河を渡り切ることができた。
やがて鬱蒼と茂る森へと突入し、駆け抜ける。
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風にそよぐ葉がカサカサと鳴る森を駆け抜けること数時間ほど。
所定の位置から森を抜けることができた。
事前の調べ通り、森の中にある道は騎兵で隊列を組んで通り抜けるのに充分な広さだった。
かなりの速度で飛ばしたにもかかわらず、騎兵達には疲れが見えなかった。
一人たりとも脱落しておらずみんな涼しい顔をしている。
馬も馬でむしろ良き乗り手に恵まれて心も軽やかに走れているようだった。
いよいよここからが本番だ。
森を抜けたここから先は悪鬼の勢力圏。
いつどこで悪鬼の軍に遭遇するか分かったものではない。
ノアは森を出る直前で軍を止め、四方に偵察兵を放ち、悪鬼達が近くにいないか探らせた。
すると、すぐに斥候兵は成果を持って戻ってきた。
近くに停留している荷車と休んでいる悪鬼の一群を見つけたのだ。




