第171話 新しい力
「いいか。今回はあくまで情報収集がメインだ。ディーシュ族と鬼人の里について生の情報が欲しい。善後策はその後だ。だから部隊の編成もそれに準ずるものとする」
ノアはそう言って集まった家来達に釘を刺した。
「ディーシュ族の防衛ライン、国境要塞の状態、敵対勢力の状況、内政状態、これらを総合的に鑑みてディーシュ族を領土に組み込むかどうか決める。まずはオフィーリア」
「はい」
「今回は指揮権なしだ。護衛として付き従ってもらう」
「……」
「参謀などの補助業務に徹してもらう。今回の任務を我慢して全うすれば以前の不手際については許してやる」
「かしこまりました。ノア様の小姓・見習い騎士になったつもりで全力で任務に当たらせていただきます」
「次にエルザ。悪鬼達の攻城能力を測りたい。要塞の損傷度合いを調べてくれ」
「了解です」
ノアがそうやって配置を決めていると、ファウナが声をかけて欲しそうにこちらをじーっと見つめているのに気づいた。
「ファウナ。お前も来るか?」
「はい!!」
ファウナは嬉しそうにして、自分の馬を厩舎から引っ張ってくる。
「ルーシーとイングリッドは留守番。冬の祭りと万が一の品不足に備えてくれ」
「ラジャ」
「りょうかーい」
「では、私も留守番してますねー」
アエミリアがさりげなく抜けようとする。
「アエミリア、お前も来い」
「うう。やっぱりですか」
「ディーシュ族と鬼人達の内政状態について調べてもらう」
「うう。この寒さで城を離れるのはキツイんですが」
「ノア様も寒い中、出掛けられるんだ。我慢してください」
オフィーリアに嗜められてアエミリアは渋々外套を羽織る。
「さて、行くぞ。まだディーシュ族すべてが味方と決まったわけじゃない。用心のために部隊を率いていく」
「こういう時、ドロシー様がいないと不便ですねー」
「エルザ、それを言うな。今、ドロシーをマギアから離すわけにはいかないんだ」
エルザとオフィーリアが何気なくそんなことを話した。
ノアはドロシーとの会話を思い出す。
それは国際会議後、のことだった。
折いって話があるというので、ノアはドロシーと二人きりで話す席をもった。
♦︎
「どうしたんだ? 改まって」
「オフィーリアのことじゃ。ナイゼルとの終戦間際の奴の独断。お主はあの件についてどう思っておる」
「……もちろん問題だと思ってるよ。だから事実上の降格処分にしている」
「降格処分だけでいいのか? オフィーリアの独断は目に余る。もし、奴の影響を受けて命令無視や独断専行、クーデターを起こす奴が出ればどうなる? そろそろ危険な水域にきてるのではないか?」
「何か考えがあるのか?」
「うむ。オフィーリアにアークロイ兵の信望が集まりすぎているのが諸悪の根源じゃ。オフィーリア以外にも武将を推し、相対的にオフィーリアの権威を弱めてみてはどうじゃ」
「アークロイ内部でも勢力均衡するってわけか」
「うむ。その通りじゃな。軍部の有望な将を四、五名選んで、オフィーリアと同格レベルの将に認定し、互いに牽制させ合うのが望ましい」
(ナンバーツー不要論。オーベル◯タインみたいなこと言うな)
「なるほど。現実的だな。だが、その方策には限界と大きな欠陥がある」
「……というと?」
「マキャベリズムという教えがあってだな」
「ふむ。例の夢に出てくる前世の記憶内の知識か?」
ドロシーにはそういう風に説明していた。
「ああ。そうだ。その教えによると、君主は狡猾さと非情さ、冷酷さを持つべきで、愛されるより恐れられる方がいい。その原則は外敵に対してだけでなく内部の統制にも適用されるべきで、政敵の排除に権謀術数を用い、甘言を弄して他者を利用し、必要とあらば非情な切り捨ても許されると説いている。まあ、政治的な現実主義を追求した考え方だな。君の策、部下同士をいがみ合わせて団結できないようにし統制を図るのも、典型的なマキャベリストのやり口だ」
「ふむ。それの何が悪い?」
「組織が萎縮して、側近がイエスマンばかりになる」
「……」
「統制を強めすぎると、組織をトップの思い通りにできる一方で、言われたことしかできない無能ばかりになってしまうんだ」
「……」
「独裁者が陥りがちなパターンだ。自分に逆らう奴を処断しているうちに、みんな自分が罰されることを恐れ、萎縮して言いたいことが言えなくなる。するといつの間にか上から下までイエスマンばかりになって、自分で考えて動けない奴ばかりになっていく。組織に弾力性や活力が失われて、極度に硬直化・官僚化してしまう。その一方で有能な奴から順次、組織から離れて敵側に寝返っている。いつの間にか味方には自分で考えられる奴がいなくなって、逆に有能な奴はすべて組織から離反して敵側に付いてしまっている。末期には隠蔽や現実無視の規律主義が跋扈して、まともな報告すら上がってこなくなる」
「……」
「ある程度の規律と統制、現実主義、場合によっては権謀術数は必要だが、それはそれでかえって組織を短命にしてしまうんだ。特に今後、戦域が広大になるにつれて、言われたことしかできない奴ばかりになると問題を処理しきれなくなる」
「なるほど。お主の考えは分かった。だが、それならオフィーリアの危険性についてはどうする?」
「俺の鑑定スキルで鑑定したところ、オフィーリアの忠誠にはもう一段階上がある」
オフィーリア
忠誠:A→S
「その可能性に賭けてみたいと思う」
♦︎
ディーシュ族の里に入るに当たっては、選りすぐりの騎兵を連れて入ることにした。
セリクの話によると、ディーシュ族も他の鬼人族と同様騎馬能力に長けており、騎戦スキルの高い者には特別高い権威が認められる傾向にあるという。鬱蒼と茂る森を抜けてディーシュ族の里に入ると、そこには家々がひしめき合っているのが見えた。
(思ったより発展してるな)
もっと集落然とした未開の土地だとばかり思っていたが、家々がひしめき合って、街と呼べるくらいには発展していた。
教会と思しき施設にも物見の塔がついていて、十分立派な建物だった。
流石に城壁は一回り小さかったし、城壁から一歩外に出れば森が広がっているが、道路は石畳で舗装されている。
荷車が行き交うくらいには物流が盛えていた。
都市として充分整備されていると言えるだろう。
そしてこれだけの都市が成立しているということは、傘下にかなりの農村を治めているということだ。
上手く統治すればかなりの税収が期待できそうだが、それだけに悪鬼対策を急がなければ傷口は広がるばかりだろう。
沢山の騎兵を伴って、ディーシュ族の街に入ると、狙い通り、ディーシュ族の有力者達はファウナ始めアークロイ騎兵の騎乗能力の高さに感嘆の声を上げる。
特にファウナを見て驚く。
アークロイではあんな幼い娘でもかくも巧みに図体のデカい馬を乗りこなしているのかと。
「凄いな。どの馬も立派な毛並みじゃないか」
「乗り手も大したものだ。あれだけデカい馬をいとも容易く乗りこなしている」
「見ろ。アークロイではあんな少女まで馬を乗りこなしているのか」
「これほど優秀な騎兵隊を従えているとは」
「アークロイ公、流石は他の五公を下しただけのことはあるな」
「最近、大公になったそうだぞ」
こうして初対面の印象をよくできたため、権威を纏って堂々とディーシュ族の有力者達に迎えられることができた。
彼らの鑑定作業も速やかに執行う。
(忠誠値は領主の器に反応して向上するステータス。オフィーリアの忠誠値にはもう一段階上がある。それは裏を返せば、俺の領主としての器にもう一段階上があるということだ)
ゼーテ王になったためかノアは新たな力が使えるようになっていた。
鑑定スキルを鬼人の有力者達に向けて発動する。
すると、以下のように彼らだけでなく彼らの配下の兵士や領民の資質まで一覧で見れるようになっていた。
ディーシュ族のステータス一覧
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統率:CDBECDFEDEFDEDDEFCC
武略:CDDCEBCDCFDCCDDDCCE
内政:FCEBDBCBBCDDBCCDEDD
外交:FBCCDDBCCECBDCEBCDC
攻城:CCECDDCEDCDCFDCCDDD
……
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(この進化した鑑定スキルで一段階上の領主を目指す!)




