第169話 聖城の守護兵
「ファウナ、お前はどう思う?」
ノアはファウナに意見を聞いてみた。
「はい。ディーシュ族の方々が差し迫っているのは本当のようです。何度かディーシュ族の領地付近まで偵察に出かけましたが、実際に他勢力に押されて鬼人達がアークロイの方に移住してきている様子がそこかしこで見られました」
「そうか」
ファウナ
騎戦:A
斥候:C↑↑→A
射撃:E→A
ファウナはあれから更に騎戦スキルと斥候スキルを磨いてきたようだ。
一つ才能を極めると付随する能力も上がるものだ。
聞くところによると、ちょくちょくホーンズの森を越えて、鬼人の里を偵察し、クルック城に鬼人国の情勢を伝えているとのことだ。
ファウナなりに何かノアの役に立ちたいという気持ちがあるのだろう。
ファウナの言うことは信用しても良さそうだった。
「よし。分かった。マギアの情勢も落ち着いてきたことだし、冬は一旦アークロイに帰ろう」
「そうですね」
「わー。久しぶりに帰れるの楽しみです」
「お土産何にしましょうか」
アークロイ勢は全員頬を綻ばせる。
兵士達は一定のローテーションを組んで帰郷と居残りを回していたが、将官クラスはずっとノアに付きっきりだったので、久しぶりの帰郷だった。
「ファウナ。よく知らせてくれたな」
「はい」
ファウナはノアの役に立てて嬉しそうにする。
ノアは僻地に帰る前に船に乗って、ある所に寄っていた。
アークロイに帰る前にどうしても訪れなければならない場所がある。
聖城ゼーテだった。
ノルン艦隊に護送されてゼーテに最も近い港に入港した後、荒野を抜けてゼーテ城へとたどり着く。
アークロイの旗を掲げながら城に近づくと、予め来訪を告げていたのもあって、すぐに出迎えの態勢が取られる。
城壁に登った兵士達は城門に近づくノア達に向かって歓呼の声を上げた。
「来たぞ」
「アークロイ大公ばんざーい」
「ゼーテ王。万歳」
「神よ。ゼーテ王ノアに祝福を!」
ノアが軽く手を振ると、兵士達はより一層歓声を上げた。
先着しているルーシーも指笛をピューピュー吹いて囃し立てる。
城門を潜ると守備隊長が出迎えてくれる。
「お待ちしておりました。ゼーテ王にしてアークロイ大公ノア様」
「うむ。出迎えご苦労。今後はアークロイ大公かノア様でいいぞ。みんなそれで呼び慣れてるからな」
「かしこまりました。では、アークロイ大公、ご案内いたします」
ノアは守備隊長の案内に従って、城内に招き入れられる。
「君達の働きぶりはルーシーからよく聞いている。ゼーテ城をよく守ってくれたな。なかなか来られなくてすまない」
「とんでもない。大公様の救援物資に城兵一同大変感謝しております」
「何か困っていることなどはないか?」
「いえ、特には……。大公様のおかげでこの城の物資は充実しております。ルーシー様からの定期補給を継続していただければそれ以上のものは必要ありません」
「ふむ」
確かに城内に何かが不足している気配はなかった。
守備兵達は規律正しく軍務に就いているようだし、召使いや見習い騎士を見ても血色はよく、栄養状態に問題はなさそうだった。
あれだけの長期的な包囲に耐えていたにもかかわらず、城内には悲壮感が驚くほどなかった。
薪も水も食糧も充分に蓄えられている。
ルーシーによる補給が滞りなく行き渡っているようだった。
ノアは聖人の眠る聖櫃に祈りを捧げ、聖堂で兵士達による承認によって無事正式にゼーテ王の称号を得た。
そのあとは将校達によって作戦室に招かれて、魔族側の動静やマギア・アークロイの情勢などについて情報交換し、今後のことについて話し合う。
「では、マギアと五大国を巡る情勢は落ち着きそうだということですか」
「ああ。ただ、アークロイの方で再び動乱の気配があってな。今年の冬はアークロイで過ごそうと思っている」
「かしこまりました。ゼプペスタ(ゼーテを包囲していた魔軍四天王の一人)の軍勢はしばらく立ち直れないでしょう。何せあの厳冬の中での包囲。凍死者や餓死者だけでも相当な数に上るはずです。周囲の街とも問題なく連絡を取り合えておりますし、我々は問題なく冬を越せるでしょう」
「それを聞いて安心した。君達の配備について何か希望はあるかね?」
「では、我々を神聖魔女ルーシー麾下の部隊に入れていただきたい」
「……ルーシーは確かに騎士だが、ほとんど補給や商業部隊だぞ? いいのか?」
「神聖魔女万歳」
「アークロイ第一軍の背後を補給させていただきます」
「何にもやってくれなかった。神聖教会と比べて神聖魔女の何たる慈悲深きことか」
(相当、ルーシーは感謝されてるみたいだな)
守備隊長
補給:B
築城:B
信頼:B
信仰:B
その他の兵士達も概ね補給、築城、信頼、信仰の能力値が高いようだった。
(流石に過酷な包囲戦を乗り切っただけのことはあるな)
信仰が高いから聖城から離れて勝手なことをすることもないだろうし、魔軍や周囲の国々と取引して裏切ることもないだろう。
彼らは法王の権威をある程度認めてはいるものの、その信仰の対象は教会よりも神にあり、法王が絶対的な存在というわけではないようだ。
これは法王と微妙な緊張関係にあるノアにとっても都合がいいことだった。
「分かった。では、引き続きこの城の防衛を頼むぞ」
「はっ。魔軍に動きがあればルーシー様を通してご報告いたします」
ノアは城の兵士達には信頼だけを伝えて、それ以上何も命じず数泊するとマギアへ戻り、冬になって河が凍る前に魔法院での審議を終わらせて、アークロイへと帰った。
マギアにはドロシーとクラウス、ランバートだけ残して後のことは任せる。
マギアの防衛は現地の魔法兵に任せて、ほとんどの兵士達を伴ってアークロイに帰還する。
マギアの民はノアが僻地に帰ると聞くと、本当に平和が訪れるのだと分かってホッとした。
マギアに安定と緩やかな統一をもたらしたノアだが、マギアの人々の中ではまだアークロイ大公は戦争の人、覇王というイメージが拭い切れなかった。
イングリッドもノアについてアークロイで冬籠りすることを選んだ。
マギアでは本性がバレているが、僻地ではまだまだ姫扱いされている。
こうしてイングリットは毎年、冬には僻地に籠るので、ノルン公の冬籠りとマギアでは言われるようになった。




