刀匠バウワ
リサベルの合流により、その後はスムーズに下山することができ、ようやくロゴス領に辿り着くことができた。
途中ミスト王国側の山沿いでバウワ達の集落に寄って一泊し、サザンドラまで辿り着いたので有る。
「…………長かったわね。それに暑かったわね………」
「まぁそのおかげでバウワ達がゴムの木を育てながら作業できるんだから。………熱中症とかならないかしら?」
ミモザがうなだれるほど暑かったのは間違いない。
真夏の温泉地など、暑さと湿度で騎士が着用するアーマーの下は汗だくになっている。
サザンドラは南に位置する事もあり、気候は沖縄に近い。
日本ほど縦に長くない地形のミスト王国に、北と南でこれだけの気候差があるのが疑問ではあったが、流石にアリシアも気象学の知識は持ち合わせておらず、『そんなもの』として認識するしかなかった。
「まずはロゴス公爵邸に向かいましょう。アリス様が公爵に連絡を入れてくださっていますわ。」
リサベルに言われて目的を思い出す。
マリエルとサーズをここで下ろしてアリスのところまで急がなければならないのだ。
「サザンドラから王都までなら急げば3日で辿り着けるわね。まぁそれもかなりの強行ではあるんだけど。」
「わたし速ければ4日位って言っちゃったのよね………怒られるかしら?」
ミモザが不安がっているが、事情を知るであろうアリスがそれくらいで怒るとは考えられない。
むしろ、『急げ』と通達してきた理由の方が気になっていた。
「シェリル嬢の友人であります、ミモザ・サーセンタです。本日はロゴス公爵と謁見のために参りました。」
「お話しは伺っております。どうぞそのまま中へとお進みください。」
公爵邸の門が開かれると、広い庭を馬車が進んでいく。
その様子にサーズが緊張していた。
「………どうしたの?お腹でも痛い?」
アリシアが心配しながら診察しようとするのをサーズが静止する。
「違うよ!こんなに広い庭の中をこうして進むのって緊張するでしょ!」
「…………?でもついこの間まではジルコニウムの皇宮に滞在していたじゃない?」
「あのね〜…………姉様にこんな事を言うのは無駄かもしれないけど、ジルコニウムはまるで狐につままれたような気分だったの!規模がまるで違うし、家と言うよりお役所とかそんな場所に感じていたんだよ。でも今度は自国の公爵邸だよ!?今後のことを考えれば緊張するに決まっているでしょう!」
「さすがブラッド家跡取りだわ〜!偉過ぎておねーちゃん感動しちゃう!!」
そう言って頭を撫でくりまわすアリシアの手を、サーズはペシっと払う。
「まったく………姉様といると感覚がバグっていく自分が怖いよ。ブラッド家の大きさを思い出して欲しいくらいだよ。」
そう言われてアリシアは目をつぶって思い返す。
脳内に浮かぶのは大自然の中にポツンと佇む2階建ての家屋。
部屋数も多くはなく、子爵家に陞爵されたタイミングで建てられた木造の館である。
「………でも庭は広いわよ?」
「あれは庭じゃなくて畑と放牧地!」
サーズが呆れているが、庶民感覚のアリシアはそれでも大きいと感じている。
大きさの違いはあるだろうが『どちらにしろ大きいし立派』だと認識しているアリシアにとっては、ブラッド邸だろうがロゴス公爵邸だろうが現実離れし過ぎていて比べられないのである。
アリシアも当初は緊張していたが、最近はそのような場所に立ち入ることが多く完全に麻痺していた。
「まぁシェリルの実家って考えればそこまで緊張する必要はないでしょ!」
アリシアは友人宅訪問程度に考えているようだが、サーズからすればそんな生易しいものではない。
次期王の弟が婿入りする事が確定している公爵邸であり、実質ミスト王国No.2の家柄である場所なのだ。
伯爵に上がったばかりの貧乏なブラッド家では、どう足掻いてもお近づきになる事すらはばかられるような相手なのである。
「………姉様の人脈が異常なんですよ!王家に公爵家に侯爵家、代々続く立派な伯爵家に王太子妃を輩出する子爵家?どんな事をすればこんなことになるんですか!?」
サーズが頭を抱えてヘドバンを決めて呻いている。
それを冷静に見ていたミモザがトドメを刺す。
「…………そうは言うけど、あなたの姉は大国ジルコニウム帝国の次期皇太子妃なんだけど……………?」
「……………………………うわぁぁぁぁxqぁぁ……」
現実を突き付けられたサーズはさらに絶叫するのだった。
「久しぶりだね。元気にしていた?」
公爵邸ではシェリルが出迎えてくれる。
「シェリル!?久しぶり〜って、たかだか3週間位じゃない?むしろもうすぐで学校も始まるんだから毎日会えるわよ!」
リサベルがそう返すが、和んでいる場合ではない。
アリスの指示通り、ここにサーズとマリエルを預けた後に急いで王都へと向かわなくてはならないからだ。
「シェリル。早速で申し訳ないのだけど、サーズとマリエルを預かってくれる?これから急いで王都へと戻らなくてはいけないの。アリス殿下から急いで合流しなさいって命令を受けていて…………」
アリシアはこれまでの経緯をシェリルに打ち明けると、シェリルはにこりと微笑みながら執事に言って馬車を奥へと誘導させる。
「事情は分かったけど、今日一日くらいは泊まって行きなさい。それにまさかとは思うけど、わたしを置いていくなんて言わないわよね?オンリー辺境伯領のことを聞いた以上は、わたしもお手伝いするに決まっているでしょう。」
「えぇ!?いやいや、さすがに今回は戦争に参加するのよ?シェリルにはそこまで攻撃魔法が扱えるわけでも、剣に覚えがあるわけでもないでしょう?さすがに連れて行くわけにはいかないわ!」
「そうよ!わざわざ命を危険にされす必要なんて無いのよ!」
アリシアとミモザが止めようとするが、シェリルはそれを聞き入れるはずはなかった。
「安心して!別にわたしは戦争に参加するなんてひと言も言っていないじゃない。後方支援にまわるのよ!シアと一緒にね。」
その言葉で理解ができてしまった。
負傷兵の手当てを行う側にシアを引き連れて行くつもりなのだ。
「…………仮にも一国の王子の婚約者2名が戦場に行くなんて許されるわけ??」
アリシアがそう言うと、シェリルが呆れた顔である。
「アリシアこそ理解しているわけ?わたしとシアはミスト王国の王子の婚約者であり、戦場はミスト王国内で行われているのよ?対してアリシアはジルコニウム帝国の皇子の婚約者。同盟国とは言え他国の戦場に乗り込もうとしているの。その意味がお分かりかしら?」
そう言われてしまうとぐうの音も出ない。
『まだミスト王国の貴族だもん!』と言い返そうかとも考えたが、それも特大のブーメランになって返ってくるのが目に見えてしまった。
アリシアが完全に詰みの状態になっていると、リサベルが声を掛けてくる。
「アリシアも諦めなさい。シェリルの事なんだから、すでにアリス様の許可も取っているのでしょう。もちろん聖女であるシアが治療に行かないわけがないし、すべて決まった事なんだと思うわ。」
リサベルにそう言われてシェリルを見ると、自信たっぷりに頷いている。
つまり、アリシアとミモザがなにを言おうとも、決まっている事なのだ。
「アリス殿下が急げと言っていたのは、わたしとシアを後方まで連れて行く任務をアリシアとミモザとリサに任せるつもりだと思うわ。すでに戦争が始まってかなり経つわ。後方の救護がまわっていないそうなのよ。向こうはなるべく早く聖女に来てもらいたいってわけ。」
「はぁぁぁぁぁ〜…………それならそうと言ってくれればよかったのに。シアも行くってことは、護衛も相当数付くのでしょう?」
アリシアから長いため息が漏れる。
国の宝である聖女に付く護衛となれば相当の数になるだろう。
そう考えれば何故自分たちに依頼が来るのかが分からなかった。
それにシェリルが答える。
「まぁそうでしょうね。でもアリス殿下は、その護衛よりもアリシア達を信頼して依頼するつもりなのよ。もし聖女に何かあったら大変だからね。護衛騎士が多いとは言えほぼ前戦に送った後なんだから、戦力としては乏しいのよ。」
「なるほどね。全てが繋がったわ。でもそれならそうと、なんでアリス様はあのときにそう説明してくださらなかったのかしら。」
今度はミモザが疑問を投げかける。
わざわざスクロールで連絡を入れてきたタイミングで教えてくれても良いものだろう。
さすがにその理由まで分からなさそうなシェリルだが、一応の見解を示してくる。
「多分なんだけど、そのときはまだ国王陛下の御許可を受けていなかったのではないかしら。すでに許可をもらっている話であれば通達できるけど、まだ許可を得ていない状態で勝手に命令を出すのはまずいでしょ?聖女の派遣権限は国王に一任されている内容ですもの。」
「なるほどね。シェリルの話はかなり確率が高いものだと思うわ。いくらアリス殿下の権限が高かろうが、聖女に関してはどうにもできないもの。」
リサベルが同意しているが、アリシアとミモザはその件について初耳であったため、なにも言えないのである。
(聖女って国王管轄だったの!?そんなの知らないわよ!)
アリシアは忘れているが、以前ミレーヌから妃教育を受けていた際に教えられていた。
そのときは“聖女“と言う単語に気を取られて、内容までは入ってこなかったのである。
「とりあえず長旅ご苦労様。今日はゆっくり休んで明日出発しましょう。お祖父様もアリシアに会えると喜んでいたわ。」
そう言うと、シェリルは屋敷の中へと案内してくれるのだった。
夕食を頂いた後、シェリルがアリシアの滞在する部屋へとやってきた。
「アリシア。少しこれを見てもらいたいのだけど………」
そう言って手渡してきたのは、見覚えのある輪っか状のゴムである。
「完成したの!?」
「分からないから確認してもらいたいのよ。どこが完成なのか分からないんだから。」
ゴムの事業に手を出しているが、実際ゴムは商品化までの道のりが長い商品である。
以前ゴムについては知識を共有したのだが、その商品ともなればメインというよりもサブである。
靴底や馬車の車輪など、その大部分がゴムでのみ出来ているものではない。
そこで目指したのが輪ゴムである。
輪ゴムはさまざま用途に用いれるというだけでなく、その弾性力を生み出すための加硫の技術向上にはうってつけの商品であった。
アリシアが受け取ると、伸び縮みや弾性力、そしてゴムの弾力にまで文句は無い。
「うん!完璧だわ。さすがドワーフの技術者ね!」
「それでもかなり苦戦したみたいよ?でも連日遅くまで話し合いを続けて完成したみたいなの。来る途中に会ってきたのでしょ?何か言っていなかったかしら?」
「いいえ?むしろゴムの話なんてひとつもしなかったわ??」
その話を聞いたシェリルは笑ってしまった。
「なるほど……なるほどね!つまりはアリシアに直接確認するまでもなく、これが完成形って事に自信があったのね。バウワ達ドワーフって本当に面白いわ!」
シェリルはドワーフ達と仕事をするうちに、彼らの職人としての強い意志が理解できるようになっていた。
中途半端なものは決して表には出さない。
そんな職人達なのである。
そんな話をしていると、ノックと共にメイドがやってきてシェリルに耳打ちをする。
「どうやらまた会う機会ができたようよ?」
そう言って連れてこられたのはバウワだった。
「いやいや、旅立つ前に間に合って良かったですわ。」
バウワがアリシアの姿を見てホッとしている。
「その様子だと、用があるのはわたし?」
「そうですよぉ。アリシア様、少々アリシア様のレイピアを見せていただいてもよろしいですかい?」
バウワに言われ、アリシアは壁に立てかけてあったレイピアを渡す。
刀身を抜いて確認していたバウワが質問してきた。
「やはりそうかぁ……………アリシア様、このレイピアは何処で?」
「何処って………王都にある女神信仰の教会だけど…………」
アリシアがそう話すと、バウワが何かを思い出したようにぶつぶつ独り言のように話しているのだ。
「あの銅像に刺したレイピアかぁ!なるほどなるほど………周り巡ってここに行き着いたわけか。面白い。」
1人で何かを納得しているが、アリシアはドキドキしてしまう。
女神像の脇にさしてあった件ではあるが、シスターに許可を得て貰ってきたものである。
決して盗んだものでは無い。
だがレイピア自体の持ち主は、もしかしたらシスターでは無い可能性もある。
何故ならシスターは、ずいぶん昔に奉納された物だと話していたからだ。
「………もしかしてだけど、それはバウワが………?」
おそるおそる聞いてみると、バウワはあっさりと認めたのである。
「確かにコイツは昔、おいらが打ったもんです。大聖女様に贈るレイピアだったんですよ。ですがそれを贈る前に逝ってしまわれたんで、エルフと旅立つ前に教会へと奉納したってわけですわ。まさかアリシア様がお持ちで使ってくださっているとは思わず、嬉しい誤算でした。」
それを聞いてホッとする。
つまりは500年前に貰う予定だったものを、生まれ変わって受け取っていたというだけである。
盗んだと叱責されるわけでないと分かっただけで、安心して腰が抜ける思いだった。
だがバウワはそれを鞘へと収めると、袋の中にしまい始めたのだ。
「バ、バウワ?」
「あぁ、ご安心を。コイツはまだ若い自分が打った不出来な物。そいつをいまだにアリシア様が使っているのが我慢できんかったんですわ。以前見かけたときから気になっておりましてね。一晩預からせていただいても良いですかい?せっかくなら研ぎ直すだけでなく、とっておきのレイピアに仕上げて参りますぜ!」
そう言って胸を叩くバウワである。
そこまで言われてはお願いせざるを得ない。
「分かりました。バウワにお願いするわ。勝手に使っていたのはこっちだしね!」
アリシアがそう言うと、バウワは頭を下げて戻っていったのである。
「………ゴムの実験に飽きてしまったのかしら…………?」
シェリルが心配そうに呟いている。
「多分………そうじゃないわ。バウワ……ってよりも、ドワーフの人たちって、自分の作品に自信を持っているものなのよ。だから気になったんじゃないかな?500年で技術は上がっているのに、当時の自分が打った剣が目の前に出てきたら、気になって打ち直したくなってしまったんでしょ!」
「あの顔はそうでしょうね。シェリルが心配する事ではなさそうよ?あれはこだわりが強い職人の顔だったわ。」
リサベルがそう思ったのは、競竜場を作る職人と接してきたからである。
職人達はこだわりが強く、決して出来に手を抜かなかった。
そんな人達とバウワが重なったのだ。
「それに、ドワーフ達は喜んであそこに居ついたのでしょう?なら大丈夫!昔もそうだったけど、ドワーフって職人気質だから、良いものが作れる環境と美味しいお酒があれば文句なんて言わないわ!それに自由だし、今までよりも居心地がいいのは間違いないんだから!」
アリシアはサザンドラの街の中に、ドワーフがちらほらと見られたことが嬉しかった。
サザンドラの人達も差別することなく受け入れており、まるで500年前に戻ったかのような風景が広がっていたのだ。
「バウワだけじゃなくて他のドワーフ達も、きっと感謝しているわ。この街がこうしてまた栄える様子が見れて、わたしも嬉しいんだから!それにバウワ達も元の場所に戻って来られたわけだし、最高なんじゃない?」
シェリルの気遣いが嬉しい、ドワーフと人が仲良く接しているのが嬉しい。
この気持ちはバウワ達ドワーフも一緒だと、どこか確信のようなものがアリシアにあったのだ。
そんなアリシアの言葉にシェリルは少し安心したような表情になる。
「それなら良かった………。無理矢理連れてきてしまったんじゃないかって心配していたの。ずっと住んでいた場所から移動するって、勇気がいるでしょ?今回リンさんを通してお願いしてしまったから、他の人たちは断れなかったんじゃ無いかって思って…………。それにサザンドラはもう、昔と同じではないでしょ?大聖女様がいない街に、ドワーフが魅力を感じてくれるのかが分からないから……………」
「そんな気遣いをシェリルがしてくれていることが嬉しいと思うわ!それにバウワ達は自由にお酒が飲めて満足していることでしょう。酒場の売上金、きっとすごい事になるわよ!」
アリシアがそう言うと、その場の全員が想像して笑ってしまうのだった。
翌日である。
アリシア達が収納のスクロールに荷物を詰め込んでいると、バウワが大きな袋を背負い込んでやってきたのである。
「いやいや!間に合って良かったですわ。つい熱中してしまって、遅れるところでしたわ!」
そう言うとバウワは豪快に笑って見せたのである。
「むしろ気に掛けてくれてこちらこそ感謝だわ!ところでバウワ?ずいぶん大荷物だけれども、それは一体なんなわけ?」
アリシアが気になって聞くと、バウワは思い出したようにその場に袋を下ろして広げて見せたのだ。
「……………これって……」
「今までに作りおいてあった装備をついでに持ってきたんですよぉ。役に立てればと思いましてね?」
そう話すバウワの前には、アリシアのレイピアだけでなく、ミモザが使う用の中剣、リサベル用のロッドとローブ、シェリルが身に付ける用のアーマーまで用意されていた。
驚きつつもそれぞれが手に取ってみると、明らかに軽くフィットする。
『あまり物』と言っていたが、わざわざ体に合わせて調整してくれていたのであった。
「バウワさん……これって………」
「あぁそれですかい?それはシェリル様ようの胴当てと短剣ですわ。流石にミモザ嬢の様な中剣は無理でしょうから、一応の護身用になればと思いましてね。胴当てともに、ミスリル製ですので硬くて丈夫です。万が一でも命を守ってくれますよ。」
バウワはドワーフの中でも特段に刀剣作製に優れている。バウワのミスリル製短剣ともなれば、王都で屋敷が建つレベルの額でやり取りされるほどであった。
「ちなみにミモザ嬢の剣はミスリル鋼にアダマンタイトが含まれている特別製ですわ!ネックとしてはミスリルよりもアダマンタイトは重量が出るんですが、普段使っている鉄剣とほぼ同じ重さに揃えてますぜ!この合金のメリットは切れ味が落ちないことです。獣を斬って血油がベッタリついたとしてもへっちゃらですからね。騎士の嬢ちゃんにはもってこいでしょう。」
「……………ア……アアアアア…アダマンタイトォォォォ!?」
ミモザが驚きすぎて目が飛び出しそうになっている。
無理もない。
アダマンタイトは幻の金属と言われ、そもそもミスト王国やジルコニウム帝国での産出記録はない。
重量はあるがこの世で最も硬いと言われ、金属価値だけでもキロ単価で国が建つとも言われる貴重な金属である。
「昔たまたま旅の途中で少量入手したことがありましてね、使い所が難しくてもう数百年も放置してたんです。今回ついでにと思って持ち出してきたんですが……思った以上に興が乗ってしまいまして、危なく間に合わないところでしたわ!」
またしてもバウワは豪快に笑っているが、“金属価値+バウワの技術”となれば、素直に受け取るのも気後れするレベルの武器である。
「どうか受け取ってくだせぇ………。使い道のなかった金属を使うことができたんですから。」
「…………大事にします。ありがとうございます!」
ミモザはもはや足に顔が付くんじゃないかと思うほどに頭を下げている。
その光景だけで面白く、みんなが笑顔に包まれていた。
「あのー………ちなみにこの杖はなんですの?」
リサベルがおそるおそる聞いてみる。
ミモザの刀剣の価値がインフレしすぎて、怖くなっている様だ。
「あぁ、そのロッドは中心にミスリル鋼が通っているから魔力の通りが良くなる。それと上に付いている石は魔法鉱石ですわ。うちで使われずに残っていた鉱石で属性魔法なら強化、属性でない魔法でも簡単な初級魔法なら使えますぜ!」
その言葉にリサベルの顔色が青くなっていく。
「属性でない魔法が使える様になりますの!?」
本来魔法は自分の属性魔法でなければ使うことはできない。
基本的な属性は火、水、土、風、光、闇、聖の7種であり、聖は聖女が持つ治癒能力として特別視されている。
アリシアは全属性のスキルを持つチート持ちであるが、リサベルもこの世界で希少な火、水、風を操る3属性魔法師である。
渡されたロッドを見てみると、聖属性を表す石を含めて7種全てが付けられているのだ。
忘れてはならないがミスリルも希少金属であり、魔法石はその属性魔法を操るモンスターから得られるレアドロップ品である。
「…………マジか!?いやいや…………これを本当にわたくしに??」
慌てすぎていつものよそ行きの口調が崩れてしまうリサベルだが、その価値の高さは他とは違い、見るだけで理解できる。
「アリス様が信頼なさる魔法師様ですからね。せめてこれくらい持っておかなくちゃカッコがつきませんよ!」
もはや太っ腹もいいところである。
最初はアリシアのレイピアを研ぎ直す程度かと考えていたメンバーは、思わぬ贈り物に感謝しきりであった。
「アリシア様にはこのレイピアなんですが………」
バウワは最後に残った本題のレイピアを指差しながら説明し始める。
「金属自体はミスリル製で今までと変わりゃしません。ただこいつには魔法術式を施しておきました。アダマンタイトはアリシア様の細腕にゃ〜重すぎますからね。」
バウワは申し訳なさそうにしているが、ミスリルも希少金属であり、もちろん高額なのは言うまでもない。
だがミモザの中剣やリサベルのロッドに比べれば印象は薄い気もする。
アリシアもそう考えてしまった節があるため、バウワに頭を下げられて慌ててしまった。
「いやいや!こんな立派な物を用意してくれただけでも感謝しきりよ!…………でも魔法術式って………何!?」
レイピア自体はバウワが調整してくれて切れ味が増し、今ならこの細い剣で巨木が切り倒せる気がしていた。
だがそこに加えての“魔法”と言う言葉が気になったのである。
「簡単ですよ。リンにお願いしたもんですわ!言うなれば“聖女の加護”って感じですかね?所持者の魔力を使って簡単な傷くらいなら治しちまいます。ですが気をつけてくださいよ。ケガをしたからと貸し出したりすれば、魔力が乏しいモンがこの刀を抜いたら最後、一気に魔力を持っていかれて死んじまいます。」
「ちょ、そんな呪いの剣みたいなの怖すぎじゃない!」
「大丈夫ですよ〜。アリシア様の魔力量からすれば、微々たるものですから。むしろ自分で治す手間が省けるってくらいですわ!」
そう言って笑うバウワだが、間違えて他人が抜いたらたまったもんじゃないのである。
「……………誰にも抜かせない様に注意しなきゃいけない方が疲れるわよ………」
アリシアはとんでもない物を渡してきたものだとこのときには思っていたが、後にこれが大きな役割を担うなど、考えてもいないのであった。
それぞれの装備が決まり、いよいよアリスの元へと向かうアリシア一行。
それぞれパワーアップした力を手に、テルヒーンに勝つことはできるのか………t
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