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サイバー太閤記 〜生身の『猿』と笑われた男、歴史知識とアナログチートで天下人へ成り上がる〜  作者: すかいはい


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第二幕:鉄錆とサイバネティクス

 その軍勢が近づくにつれ、立ち込める空気の質が変わった。


 草木の瑞々しい匂いは、鼻を突く重油と、回路が焼けるような鉄錆の臭気によって完全に掻き消される。


 大河は息を止め、茂みの隙間から街道を凝視した。


 数秒前まで異形としか形容できなかった影が、月光と人工の光に照らされて、そのおぞましくも圧倒的なディテールを露わにする。


 先頭を行くのは、十数人の足軽たちだ。


 だが、彼らが頭に被っているのはただの漆塗りの陣笠ではない。その正面には、ピンク色のデジタルホログラムで投影された『織田木瓜』の家紋が、まるでネオンサインのようにサイバーなノイズを伴って明滅していた。


 彼らが手にする長槍の穂先からは、パチパチと不気味な紫色のプラズマ火花が散っている。触れれば骨まで消し炭にされそうな、高電圧のエネルギー兵器だ。


 さらに、彼らの足元――具足の隙間からのぞくのは、人間の生足ではなかった。油圧シリンダーと複数のギアが高速で噛み合う、不骨な金属製の義肢。それが地面を蹴るたびに重厚な駆動音が山に響いていたのだ。


 その後方をゆったりと進む、数騎の騎馬武者。

彼らが跨っているのは、生物としての馬ではなかった。


 むき出しのV型ツインエンジンを轟かせ、鉄錆色のフレームに複雑なコードが這う、漆黒の戦闘用重バイク――まさに鉄の軍馬だ。


 刀を携え、甲冑を纏った武士たち。


 しかしその本質は、最新の――いや、現代すら置き去りにした超テクノロジーで全身を武装した、戦闘用サイボーグの群れだった。


(戦国時代かと思ったら……これ……)


 大河はガチガチと震える奥歯を噛み締めながら、心の中で絶叫した。


(どう見てもサイバーパンクじゃねえか!!!)


 歴史オタクの知識が火を吹くだとか、秀吉ばりに成り上がるだとか、何を思い上がっていたのだろう。


 寝言は寝て言えという話だ。こんなものは自分の知っている戦国時代のデータには一文字も存在しない。歴史の先回りどころか、彼らがが持っているプラズマ槍一突きで、大河のオーガニックな肉体は一瞬で塵になる。


「やり過ごす、絶対にやり過ごすんだ……」


 大河は爪が肉に食い込むほど拳を握り締め、地面にへばりついた。


 幸い、彼らは一列になって街道を黙々と進んでいる。このまま通り過ぎてくれれば、命だけは助かるはずだ。


 だが、電脳戦国時代の現実は、タイムスリップしたばかりの凡人にどこまでも容赦がなかった。


 軍勢の最後尾、殿しんがりを務めていた一際巨大な騎馬武者が、ふとバイクの速度を落とした。


 その武将の顔面――右半分は、無機質なメタリックパーツで覆われている。その中心にある赤く妖しく光る人工義眼サイバーアイが、不気味なレンズの駆動音を立てて、大河の潜む茂みの方向へと向けられた。


「ん……? ネズミが紛れ込んでいるな」


 ドスの効いた、合成音声のような電子混じりの声が鼓膜を震わせる。


 直後、彼の義眼から放たれた熱源探知サーマルスキャンの青い光が、大河の全身を舐めるように通過した。


「しまった……!」

「バイタルを確認。電脳シグナル、なし。完全な生身の不審者だ」


 武将が短く命じると、それまで前進していたサイバー足軽たちが、一斉に機械的なシステム音を響かせて回頭した。


 彼らが構えたプラズマ長槍の先端から、細いレーザー照準器の赤いドットが伸びる。一瞬にして、大河の胸や額が数十個の赤い光点で埋め尽くされた。


 ロックオン。文字通り、指一本動かせない絶体絶命の状況だ。


「ヒッ……」


 喉の奥から情けない悲鳴が漏れる。


 重厚な足音を引き連れて、巨躯のサイバー武将が大河の目の前まで歩み寄ってくる。万事休す。彼の人生は成り上がるどころかこの一瞬で文字通り灰になって終わるというのか。


 その時だった。


『――待て、権六ごんろく


 絶対的なカリスマ性を帯びた声が、街道の通信回線スピーカーから響き渡った。


 地響きを立てて進んでいたバイクの列が、ピタリと割れる。


 その中央から、周囲のサイバー武士たちとは明らかに一線を画す、圧倒的な威圧感を放つ一人の男が姿を現した。

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