第4話:冒険者ギルド監査(システム編)1
揺れる馬車の内で、ミントはアイリス王女からこの世界の基本をヒアリングしていた。
「大陸名はパンガイア。……女神の名前と同じね。偶然?」
「神話では女神様がご自身の名を冠したと言い伝えられています。
私たちのパノティア王国は、魔王軍との最前線を支える後方支援の要所」
アイリスは淀みなく答える。未知の武器である銃には興味は無さそうだ。
他にも敵対予兆はゼロ。
アイリス・パノティアをミントの脳内の『ホワイトリスト(信頼済みドメイン)』に暫定登録する。
対するアイリスもまた、ミントの不機嫌そうな横顔を見て、楽しげに目を細めていた。
「ミント様は、本当にお顔立ちに似合わず、厳しいことばかりおっしゃるのね。
でも、その真っ直ぐな言葉、私は嫌いではありません」
「……お褒めに与り光栄ね。ワタシの世界じゃ、これは『性格が悪い』の一言で片付けられるけどね」
牧歌的な速度で外の光景が流れていった。
「お礼が不十分だから、困ったら城を訪ねてください」
アイリス王女から手渡された王城の通門証のメダルという特権アクセスキーをアイテム袋に収納する。
馬車の揺れが止まり、ミントは王都パノティアの最寄りの街の正門前へと降り立った。
シン新宿の超高層ビルを見慣れているはずの彼女でも、
この重厚な石造りの威圧感には「非効率なまでの巨大さ」を感じざるを得ない。
巨大な石壁を仰ぎ見ながら、ミントは独り言を漏らした。
「……高いね。この高さ、巨人対策?
もし本当に巨人がいるなら、ワタシに少しだけ身長を分けてくれないかな……」
ミントは切実に、自分自身の低身長にため息をつく。
「何を……何を言っているんだ貴公は……?」
隣に立つ赤毛の護衛騎士が、困惑の表情を浮かべる。だが、ミントは至って真剣だった。
馬車を見送ったミントは、重厚な正門をくぐり、街へと足を踏み入れた。
メインストリートは、朝の活気に満ちている。
露店からは焦げた肉の匂いや、スパイスの香りが漂い、
行き交う人々は一様に、中世風のチュニックや革鎧を纏っていた。
その中を、黒いボディーアーマーに身を包んだ小柄な少女が歩く。
正門から真っ直ぐに進むと、二階建ての石造りの建物があった。
看板に剣と盾が交差する紋章が刻まれている、冒険者ギルド。
周囲を一回りして、中に入ることにする。
ミントは冒険者ギルドの扉を叩いた。
中は安酒の匂いと熱気に満ちていた。
カウンターには、営業スマイルの美人の受付嬢が待機していた。
「ようこそ冒険者ギルドへ! では、こちらの水晶に手をかざしてください。
魔力量と属性を測定し、魔力パターンで個人を識別するカードを発行いたしますね」
差し出された水晶玉にミントが適当に手をかざすが、輝きは一切変化しない。
「……あら? すみません、もう一度お願いします。接触不良かしら?」
「無駄だよ。ワタシには魔力なんてないし。
この測定器が魔力しか検知できない仕様なら、ワタシを測るのは不可能だね」
「魔力がない……? では、一律でFランクからのスタートとなります」
「ランクって何で数字じゃなくて記号なの?
数字の方が昇順・降順がわかりやすくない?
管理側の『なんとなく格好いいから』と決めた伝統かな?」
ミントは発行されたばかりの粗末な羊皮紙のカードを受け取ると、指先で器用に回しながら核心を衝いた。
「魔力パターンで個人を識別するカードを魔力のない人間に発行した。その意味は分かっている?」
受付嬢は瞬きを繰り返す。
「魔力がない人間は全て同じIDになる、という意味。
で、もしワタシが偽名を使って隣国で別のカードを作ったら、
どうやって同一人物だと紐付ける(名寄せする)の?」
「魔力なしで冒険者登録される方は今までおられませんでしたし……」
「『今までいなかった』は、セキュリティを怠る理由にはならないよ。それは顕在化していなかっただけ。
ワタシはその第一号になれる。別の公的な身分証とセットで多要素認証することを強くオススメするよ」
受付嬢の笑顔が完全に凍りついた。
周囲の冒険者たちが、冷ややかな空気の中でざわつき始める。
一人の大男が、酒臭い息を吐きながらミントを睨みつけた。
「おいおいお嬢ちゃん、理屈じゃねえんだよ。
この世界じゃ、魔力なしでFランク以上になった奴なんて一人もいねえんだ」
「魔力量が基準なら、魔導師ギルドと名乗ったら?
で、魔力のない人間の割合は人口の何パーセント?、さらにそれが冒険者になる確率は?」
言うことは言ったと、ミントは壁際に設置された掲示板へと歩いていく。




