第4話:冒険者ギルド監査(システム編)2
掲示板には依頼書が、貼り付け順にピンで留められている。
「……最悪。情報のインデックス化(索引)がされていない。ソート(並べ替え)もカテゴリもないの?
目的の依頼書を端から探すだけで、リソースを浪費させるとか、設計思想の正気を疑うわ」
「そんなことを言われましても……。うちはずっとこのやり方で……」
受付嬢が小走りで追いかけてくるが、ミントの思考回路は既に「代案」の構築を終えていた。
彼女にとって、解決策のない批判はただのノイズだ。修正パッチの提示までがプロの仕事である。
「アナログはしょうがないとしても、求人サイトのUIを見習いなさい。例えば、こうするのよ」
ミントは機械的な動きで依頼書を「緊急性」「カテゴリ」「報酬額」ごとにグリッドを意識して再配置していく。
あっという間に整理された掲示板を見て、周囲の冒険者たちがどよめく。
「これで、自分がどのタスクを受注したいか、一目で判別できるでしょ?」
「ついでに聞くけど、薬草採取、雑用、害獣駆除……これらを逐次こなすのが『定石』らしいけど、
並列処理できるクエストを一括受注したらダメ? 受注して終了報告の往復を繰り返すのは時間のムダじゃない?」
受付嬢が半泣きで首を横に振ると、ミントは掲示板の特定箇所を指差した。
「あと、この薬草採取。根本的に間違っていない?
なぜ野菜や麦は栽培しているのに、生死に関わる薬草だけは『野生の個体を探す』という運任せなの?」
周囲の冒険者が、聞き捨てならないとばかりに反論する。
「嬢ちゃん、薬草は神の恵みだ。清浄な森にしか生えない神聖なものなんだよ!」
ミントは鼻で笑った。
「神の恵み? ただの環境依存でしょ。土壌の栄養価、日照時間、湿度。森の環境を再現すれば、安定供給できる。
特定の場所にしか生えないデリケートな品種なら、その場所を切り開いて街道を通すか、物理的な壁で囲ってしまえばいい。
森の魔物を排除し、安全に管理された『薬草園』を作る。
そうすれば、低ランクの冒険者が採取で命を落とすリスクもなくなり、薬の価格も安定するはず。
供給の安定を放置するのは、非効率だね」
受付嬢が完全に涙目になっている。
一人の女性冒険者がおずおずと話しかけてきた。
「まぁまぁ。私も先月までFランクだったから、気持ちはわかるわ。一緒に頑張ろう! 良かったらパーティに参加する?」
だが、答える前に背後から不快な酒臭い熱気が迫った。
大男が、掲示板の前を独占する小柄な少女を不快そうに見下ろしている。
「おいおい、受付の嬢ちゃんを困らせてんじゃねえよ!
魔力ゼロのFランクが、一丁前に理屈並べてんじゃねえ!
クエストの一つでもこなしてから言え!」
ミントは事務的に呟いた。
「あぁ、助けてください(棒読み)」
「喧嘩はやめてください!」
受付嬢が叫ぶ。
「冒険者同士の争いに、ギルドは一切関与しない決まりなんです!」
その言葉を聞いた瞬間。ミントの口角が、不敵に上がった。
「……そう。不干渉ね」
お約束とミントの感想:
・街の周囲を守る壁がたいてい某巨人漫画並の高さ:さすがに高すぎるのでは?他のところにリソースを使った方がいい。
・美人受付嬢:男性相手の仕事なら、有利かも
・魔力の保有量がわかる水晶玉、個人を識別できるカード:魔力がiDなら魔力がないと登録できないはず
・身分証明とかはいらないし偽名でも登録できる:身分証になるなら、問題だね
・主人公は高い魔力を持ってる:ゼロでした。魔力非保有者は「エラー」ではなく「最低値(F)」?
・冒険者同士の争いにはギルドは関与しない:ワタシは平和主義ですよ
・ガラの悪い男に絡まれる:美人受付嬢にいい格好したかったのかな
・薬草は採集、誰も育てていない:これは本当にわからない
・クエストは順番にこなす:並行でこなせば、ギルドの往復の時間短縮になるよね
・冒険者にランクがある(一番上がS~SSS、下はD~F):数字の方がわかりやすいよ
デバッグ・チャットログ
ミント:競合他社がいない独占禁止法違反状態なのが停滞の主因じゃない? 自浄作用が期待できないよ。
ガイア:ええっ、いきなり組織解体案!? 複数のギルドが競い合うほどの業務量はないと思うんだけど……。
ミント:業務の分割を提案する。依頼書を見たら分かるでしょ?
街の便利屋から魔物討伐まで業務の範囲や求めるスキル範囲が広すぎる。
ガイア:でも多種多様なランクの人が同じ場所で交流するのって、異業種交流会みたいで素敵じゃない?
ミント:交流はヨソでやって、専門家を育てるべき。薬草採集(植物学)と魔物討伐(戦闘)に必要なスキルは違う。
分割してくれたら、「大人しくてか弱い専門職」のワタシが絡まれる心配もない。
ガイア:……ごめんなさい、回線状況が悪いのかしら。今、どなたが「大人しくてか弱い」っておっしゃったの?




