第5話:冒険者ギルド監査(ガバナンス編)1
ミントが銃を手品のような速度でホルスターから抜いた。
アイリス王女より小柄なミントでは、男との体格差はまるで大人と子供。
「そうだ! 文句があるなら力で語り……」
威圧するように、男が不用意に顔を近づけてきた。
男が言い終わる前に、銃のグリップで男の顎を殴打し、脳震盪で昏倒させた。
銃術では弾切れした銃を鈍器として扱う。
「不干渉なら、ワタシが先制で動いても問題ないよね」
「お、おい……一発か?あの鉄の棒で……」
ざわつくギルド内。
ミントは倒れた男を踏みつけたまま、固まっている受付嬢へ視線を戻した。
その瞳には温度がない。ミントは低く、事務的なトーンで畳み掛ける。
「彼は酔拳使いではなかったようね。じゃあ、続き。
ギルドは一切関与しないと言ったよね?
ワタシがこの男の『腕の一本』を折っても、一切関与せず見ているだけ?
『命』を奪っても一切関与せず見ているだけ?
どこまでが『不干渉』で、どこからが『事件』として司法に引き渡す明確な基準はある?」
真っ青になる受付嬢と、騒めく酒場。
「基準がないなら、ワタシが今ここでこの男を射殺しても、文句はないわよね?」
ミントは踏みつけた大男を見下ろしたまま、受付嬢に淡々と問いかける。
その声は低く冷え切っていた。
「仮にこの男が単なる快楽殺人を目的とするシリアルキラーでも、ギルドは不干渉なの?
君たちは、この男の行動が『初心者への教育』や『ただの喧嘩』であると、どうやって証明するの? 」
騒動を切り裂くように、ギルドの扉が勢いよく開かれた。
現れたのは、背中に見事な大剣を背負った男。
胸元には、高ランク(Bランク)を証明する銀のタグが光る。
「……そこまでだ。彼が悪かったのは事実だが、これ以上はやりすぎだ。お嬢さん」
男が制止するように手を差し出すが、ミントはその手を無視した。
「私の顔に免じて、とか言うつもり?人治主義、人に依存したシステムね。
彼がここでのさばっていたのは、ギルドの規約に『不干渉』という問題があったから。
注意すべきは個人の資質ではなく、この組織のガバナンスよ」
「言い分はあるだろうが、ここは腕っぷしの世界だ」
男が手を引っ込め、頭を掻く。
「私はミントよ……お嬢さん、とは呼ばないでくれない?
ならこの足元で寝てる酔っ払いより、ワタシの方が大口を叩く権利がある。そういう理解で合ってる?」
「何?」
ミントはホルスターからレーザーガンを抜き、銃口を向ける。
男の右膝、その中央に鮮烈な赤い光の点が静止する。
今は照準用の赤い光だが、引き金を引けばレーザー光線に変わる。いわば死の宣告である。
「上手く翻訳されるか分からないんだけどね。
……ワタシの世界には『銀の弾丸(特効薬)』なんてものは存在しないっていう格言があるの。
だから、ワタシは代わりに『鉛の弾丸(物理的な強制終了)』を使った。
どうなったと思う?誰も『たわごと』を言わなくなった。
……これ、笑っちゃうくらい明快な解決策だと思わない?」
ミントは薄く笑った。
「よせ、お嬢ちゃん。FランクがBランクに勝てるわけがない、死にたいのか?」
周囲の冒険者たちから失笑と、同情の混じった声が上がる。
だがミントは、ミラーグラスの奥で冷たく目を細めた。
「Fランクの理由は『魔力がないから』でしょ?
貴方たちは、この武器の性能も分からないのにね」
Bランク冒険者が剣の柄に手をかける。
「……その酔っ払いは油断してただけだろう? 俺はそうはいかないぞ」
「鈍器だと思ってるなら、試してみる? 実力を示さないと発言できないルールなら、従うと言っているだけ。
……『不干渉』がおかしいと発言するためにね!」
その時、二階からギルドマスターらしい壮年の男が駆け降りてきた。
「双方武器を収めろ!ギルドマスターだ」
ミントは視線すら向けない。
レーザーガンの赤いドットサイトは、依然としてBランク冒険者に張り付いたままだ。
「……何か御用かしら? 冒険者同士の争いに、ギルドは不干渉なんでしょ?」
ミントの冷徹な声が響く。
「それはそうだがーー
いちいち冒険者同士の仲裁なんてしていたら、ギルドの業務が回らなくなるんだよ!」




