第3話:現場入り、門閥制度は親の敵?2
背は高く、華やかな金髪が夕陽に輝き、白いドレスが映える。
王女は周囲に慈愛に満ちた笑顔を振りまき、跪く騎士たちを労っているようだった。
ミントは周囲の空気を読み、あえて一歩下がって会釈を模した。
「感謝いたします、旅の方。王都に向かわれるのであれば、お礼にぜひ同乗を」
と王女はミントを馬車へ誘う。
だが、ミントの口から出たのは、感謝でも畏怖でもなく、冷徹な「意見」だった。
「恐れながら、一言よろしいでしょうか?
助けられたからといって、初対面の相手を無条件で信用するなんて……
――ワタシとあの野盗がグルで、貴方の懐に入り込むための『マッチポンプ(自作自演)』
だった可能性は考慮されてますか?」
王女が目を丸くする。
その横から、先ほどの赤毛の騎士が今度こそ爆発した。
「貴様、失礼だぞ! アイリス殿下に対しなんたる無礼! 名を名乗れ!」
「名乗るほどの者でもないんだけどね。ライナス・ベネディクト・ミント。通称ミントよ」
「ライナス……ベネディクト……。ふん、異邦の貴族か」
騎士が姓名の長さに勝手に「血統の重み」を見出したようだが、ミントは呆れたように肩をすくめた。
「名前の文字列が長いほど偉いの?それより騎士さん、街道の索敵はしたの?
なんでこの規模の野盗に直前まで気づかなかったわけ?」
「遠見の水晶でやった!異常はなかったはずだ!」
「護衛の倍の野盗を見落として『やった』と言われてもね。……内通者の可能性はない?」
「貴様……我々の忠誠を疑うか!」
赤毛の騎士が屈辱に顔を赤くし、剣の柄に手をかける。
ミントは微動だにせず、事務的なトーンのまま、指を二本立ててその鼻先に突きつけた。
「あのね。ワタシが指摘しているのは、感情論じゃなくて『事実』。
忠誠心がどうであれ、現実はご覧の有様よ。
索敵能力が致命的に不足しているか、あるいは内部に情報を流したバカがいる。
……まずはモグラ(内通者)叩きでも始めたら?」
騎士が言葉に詰まるが、ミントは興味を失ったように背を向けた。
次は、石畳に転がされ、縛り上げられた野盗の前にしゃがみ込んだ。
「インタビューの時間よ。
撤退判断の速度から見るに、あなたたちはただの野盗ではない。
とすると、プロの軍人や騎士崩れかな?……それなのに、不思議だと思わない?
君たちが国を相手に身代金を要求したところで、回収までに軍に包囲される。
生存して逃げ切れる確率を考えると、これ、割に合う仕事(ROI)だと思う?」
恐怖に顔を歪める男に対し、ミントは感情を排した声で仮説を並べ立てる。
「考えられるパターン。
一つ目、王族内の継承順位を巡るお家騒動の片棒。
二つ目、ワタシの代わりの『誰か』が君たちを倒し、恩を売るための自作自演。
今、目をそらしたわね?」
ミントは柔らかいトーンで畳み掛ける。
「王族に剣を向けた以上、この国の法では多分死刑だよね?
……でも、君も『道具』として使い捨てられるのに、なぜこんな無茶をしたの?
家族でも人質に取られた?素直に依頼主を吐くなら、助命嘆願に協力してあげる。
契約は守る主義よ」
男は絶望に打ちひしがれ、うなだれた。
核心については何も知らないようだが、その「怯え方」そのものが有力なデータだった。
「……さて。
キミが直接の雇用主を知らないなら、君の職場を見学させて。
案内してくれるかな?」
男を先頭に森の奥へ移動を開始して間もなく、一角から煙が立ち上るのが見えた。
「隠れ家が……! 燃えてる!」
男の絶叫を、ミントは冷ややかに受け流す。
「手回しが良すぎる。
作戦が失敗した瞬間に全リソースを焼却するプランBへ移行したわけ?
襲撃側はプロで、護衛側はただの素人集団?」
失礼極まりない感想を吐きながら、ミントはミラーグラスをスッと外した。
現れたのは、予想に反してあどけない少女の素顔だった。




