第3話:現場入り、門閥制度は親の敵?1
『エラー:測位衛星が見つかりません』
『Error:サーバーとの接続が切断されました』
『Warning:認証サーバーへの接続に失敗』
「……オフライン(機内モード)で動きなさい。それで十分よ」
ミントが虚空で指を弾き、ミラーグラスを『オフライン(機内モード)』に切り替える。
すると、余計なエラーログが消え、中世の風景がクリアに映し出される。
遠くで金属がぶつかり合う音と、馬のいななきが聞こえる。
ミントは無意識に目元へ手をやった。愛用のミラーグラスを望遠に切り替える。
「……。倍率よし、フォーカスよし、ARオーバーレイよし」
音のする方へ視線を向けると、
そこにはガイアの言った「テンプレ」の欲張りセットのような光景が広がっていた。
白く豪華な馬車を、粗暴な男たち――野盗の群れが包囲している。
ミラーグラスの視覚UI(ARオーバーレイ)が、赤と青のグリッドで戦況を色分けしていく。
守る側は銀色の鎧に身を包んだ護衛騎士が十名。
対する野盗は二十名。大剣を八相(上段の構えに近い)に構えているのが、頭目だろうか?
正統な剣術の動きを感じさせるが、食い詰めて野盗になったとかだろう。
数の暴力で包囲網がじりじりと縮まっていく。
「貴公! 旅人か!」
包囲網の隙間から、血相を変えた赤毛の若い騎士が叫んだ。
「見ての通り賊に襲われている! 早く王女殿下をお助けしろ!」
ミントは動かなかった。
「待って。ワタシはただの旅人。そもそも、馬車に本当に王女が乗っているのか、
貴方が本物の騎士なのか、その証拠の提示をお願いする。
身元不明の集団に加担して冤罪や裁判沙汰に巻き込まれるのはパスよ」
「なっ……この惨状が見えんのか! 人道というものがないのか、貴公には!」
若い騎士が激昂し唾を飛ばす。
ミントはミラーグラスの奥で、事務的に戦況をスキャンしたまま言い放った。
「人道? 今はまだデュープロセス(適正手続き)の最中よ。
仮に加勢した場合の流れ弾は免責対象?」
「守銭奴か? 騎士の誇りを知らんのか!損得で動くなどと!」
さらに若い騎士が怒鳴る。その青臭い叫びに、ミントは心底呆れたように肩をすくめた。
「ワタシは騎士に叙勲されてないから、知らない。
君たちだって国から給料を貰ってそこに立ってるんでしょ?
自分の事を棚に上げて、通りすがりの異邦人に無償で助力?
そういうのを『やりがい搾取』って言うのよ?誇りじゃ弾薬は買えない」
騎士が絶句した瞬間、野盗の一人がしびれを切らしたようにミントへ突っ込んできた。
振り下ろされる大剣。
「……正当防衛、成立」
ミントの身体が動いた。
最小限の動きで大剣を回避し、マシンピストルが火を噴いた。
乾いた破裂音が響く。
一人目の足を正確に撃ち抜くと、野盗が石畳に転がった。
魔力の発動もなく、一瞬で野盗を制圧したミント。
それを若い騎士が信じられない、という顔で見ていた。
もう一人野盗が向かってくるが、今度は距離がある。
ARオーバーレイのガイド通りに正確に足を撃ち抜く。
戦場を支配していた喧騒が、不自然なほどの静寂に塗り替えられた。
通常、この手の「テンプレ」であれば、仲間を撃たれた野盗は激昂して我を忘れるか、
恐怖でその場に凍りつくものだ。
しかし、彼らの反応はどちらでもなかった。
二人が戦闘不能に陥ったコンマ数秒後、頭目らしき男が鋭い指笛を吹く。
――撤退信号。
残りの十八名は、統制された動きで一斉に反転。
脱兎のごとく森の闇へと消えていった。一秒の迷いもない、完璧なロールバック。
「……興味深いわね。未知の武器を見たら撤退」
ミントはマシンピストルをホルスターに収め、
ミラーグラスの倍率を望遠から広域へと変更した。
「二人削られた時点で、即座に『損切り』を選択。
烏合の衆のはずの野盗が、プロ並みの意思決定速度を持っている。
これは、ただの襲撃イベントじゃない」
静寂が訪れた街道に、重厚な馬車の扉が開く音が響いた。
脅威の排除を確認したのか、中から「王女」と思わしき女性が降りてきた。




