第2話:デスマーチへようこそ2
ガイアがまず提示したのは、定番の言語文字の自動翻訳。
「異世界の文字が読めて、言葉もわかるのは当然。
でも、意味論、概念そのものが存在しない単語。
……例えば『損切り』をワタシが口にした時、相手の脳内はどうなる?
相手が語感だけで『腹切り』と受け取るの? 言葉はワタシにとって最大の武器。
誤訳一つで交渉が決裂するのは、致命的なバグだよ」
ガイアは困ったように眉を下げつつも、淡々と仕様を説明した。
「損切りは概念なので、説明すれば相手は理解できます。
『サイバーウェア』という単語の場合は、強制的に『魔法の道具』として置換される。
これはシステムの問題ではなく、受信側の限界ですね」
ミントは不満げに鼻を鳴らした。
「相手がワタシの言葉をどう『誤解』しているか、知る権利をちょうだい」
次にガイアが提示したのは、一瞬で体を綺麗にする浄化能力。
「過酷な旅でも、ドレスも体もピカピカ。乙女には必須!最高のスキルだと思わない?」
「対象物から『不純物』を分離・除去するの?」
ミントが質問すると、ガイアが嬉しそうな顔をした。
「過酷な環境でも清潔にしたい、乙女には必須のスキルですよね?」
ミントは首を傾げた。
「銃器のメンテナンスに使える?燃焼カスの蓄積とかゴミで動作不良は困る」
今度はガイアが首を傾げた。
「武器が魂という武士という人もいるそうですし、銃も体の一部として拡大解釈します」
なんだか、ガイアは残念そうだ。
続いて、転生者の必須項目である『アイテム袋』。
「収納手段。破格の容量と重量無視は助かるけど、中の時間が停止する機能……。
これ、停止しているってことは、中の分子運動がゼロ、つまり絶対零度じゃないよね?
取り出した瞬間に熱衝撃が発生して、ワタシの装備が粉々になったり、
温かいスープが氷の塊になって出てくるのは勘弁してほしい」
「……中の時間は魔法で停止しているから、熱エネルギーも保存されるわ。
取り出した時の状態は入れた時と同一よ」
「なるほどね。単なる外部ストレージではなく、
ステートセーブ(状態保存)機能付きのサンドボックス領域というわけね」
代表的なツールが揃ったところで、ミントは本題に進む。
「ゴールを設定しましょう。ワタシが各地のバグを調査・修正し、世界のOSを健全化する。
それが終わればワタシは現世へ帰還する。それでいいね?」
「魔王が居座っているせいで、世界全体のリソースが消費され、文明が停滞しているの。
貴方には最終的にその論理の矛先を魔王に向けてほしい」
「魔王を倒す?冗談。荒事はストリートサムライの仕事なんだけど」
ガイアが輝く聖剣を自慢げに掲げたが、ミントは一瞥もしない。
「力に依存する武器が、ワタシの細腕で運用できると思ってるの?
魔王の城なんて、バンカーバスター(地中貫通爆弾)を百発打ち込めば更地よ。
仮に本体が生き残っても、防壁やインフラを剥ぎ取ればただの裸の王様。
あとは水攻めにでもすれば最小限で済むわ。……え、ムリ? 禁忌扱い? 」
困惑する女神をよそに、ミントは淡々と代案を構築していく。
「じゃあ、あっちの素材で『神の杖』を作る。
高高度から金属の棒を落とすだけ。オリハルコンとかミスリルとかでね。
これならただの『自由落下』、物理法則の範囲内でしょう?」
ガイアはこめかみを強く揉んだ。神の奇跡を「重力加速度の利用」に変換されるのは、彼女の想定を遥かに超えていた。
「……ミントさん。討伐する必要はない、何とかしてくれればそれでいいわ。
文明の発達を阻害する魔王という『停滞』を解消してくれれば、手段は問わない。それでどうかしら?」




