第13ー1話:美人デコイとトロイの木馬1
北前船がローレンシアの港に接岸し、
冷気漂うコンテナから「生鮮食品」と「支援物資」が次々と陸揚げされていく。
北の前線国、ローレンシア国。
魔王軍の拠点の一つ、バルティカ地方を北西の山脈越しに臨む。
魔王軍の拠点がもう一つ、東の端のインドア半島にある。
北西の山脈と東の端、片方に全力を注げない構造になっている。
全力を注ごうとしたら、後方を脅かされるため膠着するのも必然だから。
しかし、魔王軍の側からしても山脈越えでは大軍の動員は難しい。
つまりは双方が膠着状態で停滞するのも必然。
ミントはサロンで情報収集ついでにポーカーをしていた。
「ミント様、お遊びの最中に失礼。……『VIP』から至急の呼び出しです」
スタッフの慇懃な態度に、周囲がざわつく。
「誰かしら?……では失礼します」
席を立ち、重厚な扉のVIPルームの前に立った。
扉を開けると、そこには困り笑いを浮かべたアイリス王女が立っている。
彼女は学園で親しくなった令嬢クロエに招待され、このローレンシア国を訪れたそうだ。
そしてミントを探していたという、二人の「迷子」を連れていた。
灰色の髪に健康的な浅黒い肌。
その肌には、幾何学的なタトゥーが刻まれていた。
「面白い異邦人がいると聞き、相談があり来ました。
私は魔王の娘ペルセ、こちらは従者のエリスです」
と自己紹介された。
「まずい、ここを押さえられたら内通者扱いだ。二人とも破滅です!」
ミントの背中に、冷たい汗が流れる。
慌てるミントを、アイリスが静かな、だが拒絶を許さない力で制した。
「落ち着いてください。全てを救えない、
それでも助けを求められたなら、見捨てずに検討する。
それが私の思う、持てる者の義務です」
その手の温かさが、パニック寸前のミントの思考を強引に静止させた。
溜息をつき、ソファーに座る。
「ーーわかりました。お話を伺いましょう、幸い他の人間はいない」
ソファーに座り直す。
「私の願いは、人類と戦いたくない。しかし人類が魔王を倒すと、人類は父の仇になります。
その時、私は次代の魔王として人類と戦わなくてはいけない」
ペルセという少女は、魔王の娘という仰々しい肩書きとは裏腹に、線が細く穏やかな瞳をしている。
戦場よりも、詩を嗜んだり、アトリエで風景画でも描いている方が似合いそうだ。
「つまり、ワタシに停戦交渉をまとめて欲しい、と。そもそも魔王と魔族ってなんでしょう?」
ミントの純粋な疑問に、ペルセの背後に控えていたメイド――エリスが、鋭い視線を投げかけてきた。
「魔物を扱える、だから魔族。魔族の長は人間の勇者のように突出した個。
次代の魔王であるお嬢様も当然」
主人の三歩後ろに控え、メイド服を完全に着こなすメイドさん。
「こんな基礎的なことを知らない人間を相手にするのは、時間の無駄では?」
無口ではなく、悪口なメイドだった。
しばらく考え、ミントが重い口を開く。
ミントは人類の代表ではないが、この部屋には魔族と人類の国の次代の代表がいる。
「アイリス様、頼みがあります」
「どうぞ」
アイリスは、いつもの太陽のような笑顔で即答した。
「……プランの内容も、予測されるデメリットもまだ説明してませんよ?」
「いつもの最低(な手段)で最高な(結果の)プランでしょ? 頼ってくれて嬉しいわ」
と、いたずらっぽく王女が笑う。
ミントはペルセに向き直った。
「娘さんは、独立中立宣言をしてください。山脈を境界線として」
「……それは人類に利するだけでは? 我らには何のメリットもない」
従者のエリスが鋭く指摘する。
「膠着状態では交渉出来ない。不利にならないと、魔王を交渉のテーブルまで引っ張り出せない」
「お嬢様を裏切ったら、万死に値します。その時は覚悟なさい」
従者のエリスの視線が厳しくなるが、ミントは動じない。
「山脈がある限り、人類側も大軍の動員は難しい。これは現状の安全の物理的な保証。
独立宣言を受け、アイリス様にはその領土を『国家』として公式に承認していただく。
中立宣言で、山脈の向こう側を魔族の正当な生存圏として、法的に保証する。
つまり、法的に中立の魔族の独立国を立ち上げる」
ミントの視線が、地図上の東端のインドア半島へと移る。
「魔王領は半島、袋小路。だから、背水の陣で戦わざるを得ない。
そこに『山脈側の独立国家』という別の生存圏の可能性を与える。
ただ、半島という領土は捨てることになるかもしれない」
転生前のガイアの言葉が思い出された。
『魔王を何とかして』




