第12話:スタートアッププロジェクトログ(北前船)1
ミントは学園での護衛業務の合間を縫い、人材発掘をしていた。
北前船プロジェクトは、船体の完成だけでは成立しない。
それを運用するための乗組員が不可欠だ。
広く人材を集めるため、奴隷商の商品リストにミントが目を通す。
「……ワタシに必要なのは『船の運営に必要な実務経験者』。
なのに、なぜ船に乗ったこともない、観賞用モデルのような美女ばかり?
ビジュアルなら、すでにラムとヘレンが揃っている。これ以上は不要。
需要と供給のミスマッチ。……この市場では『神(の見えざる手)』は死んだのかしら」
嘆くミントにヘレンが別のリストを差し出す。
「こちらのリストは、いわばリストから漏れたリストです」
王都の路地裏。
湿気と鉄錆の匂いが混じる奴隷市場で、ミントはヘレンを引き連れ、
陳列された「商品」をミラーグラス越しに高速スキャンしていた。
目的は、北前船の運用に必要な「初期メンバー」の調達。
ミントの目に、檻の隅でうずくまる一人の少女が止まった。
汚れた服、警戒心の強い瞳。そして、細かくピクピクと動く猫の耳。
「君。……ネズミの駆除は得意?」
唐突な問いに、猫耳の少女は呆気に取られたようにミントを見上げ、短く答えた。
「……? 当たり前ニャ。お手の物だニャ」
「採用よ。店主、彼女の所有権をこちらへ。
……いい、木造船において、木材を噛み切り、食料を汚染するネズミは、脆弱性そのものなの。
君には船内の衛生担当としてのタスクを割り振るわ」
驚く奴隷商を無視して、ミントは少女に手を差し伸べた。
「働き次第で、一年後の解放奴隷を検討してあげる。期待しているわよ、新人さん」
次にミントが向かったのは、重厚な石造りの魔術師ギルドだった。
受付の職員に対し、ミントは一切の迷いなく発注書を突き出した。
「風属性と水属性の魔術師を、それぞれ単属性で二、三名ずつ。
複数属性持ちのマルチは不要よ」
ギルド職員は、まるでバグでも見たかのような顔で固まった。
この世界では、複数の属性を操れる者ほど「高付加価値な上位」として高値というのが常識だからだ。
横で控えていたヘレンも、不思議そうに小首をかしげた。
「ミント様、複数属性を扱える魔術師の方が、
不測の事態にも柔軟に対応できて便利(汎用的)ではありませんか?」
「コストパフォーマンスの問題よ。
複数属性持ちは希少価値という名目で、人件費が倍以上に跳ね上がる。
けれど、彼らの最大魔力量が倍になるわけじゃないわ。
……一点豪華主義の不安定さなんて、船にはいらない」
ミントはミラーグラスを直し、淡々とロジックを展開する。
「同じ予算を投じるなら、特定の処理に特化した単属性の専門職を二人雇った方が、
出力は安定するし、一人がダウンしてもシステムが止まらない『冗長性』も確保できる。
……ワタシたちは未知の魔境へ冒険に行くわけじゃない。
決まった航路を安定稼働させる『インフラ運営』をするんだから」
ヘレンは感心したように頷いた。
ミントにとって、魔術師は「神秘の使い手」ではなく、船の動力を維持するインフラに過ぎないのだ。
造船所にて
ドックに鎮座する巨大な北前船の船体と模型を見比べながら、
ミントは手元の図面(設計ログ)を指先でなぞった。
その船体は、この世界の既存の造船技術とは一線を画す、奇妙な機能美を放っていた。
「ヘレンには苦労をかけたね」
「まず模型から発注する、と言われましたよね」
とヘレンが思い出すように言う。
「船を作るのは初めてだからね。模型で実験して、データを集める必要があった。
幸い学園には、面白がって協力してくれる先生方もいてね」
ミントは学園での護衛業務の合間、この世界の知識人の協力を得ていた。




