第9話:学園編:武闘派メイドミッション?2
ある夜、湯浴みを終えたラムの髪を乾かしながら、ミントはふと対面のソファのアイリスに話しかけた。
「最初は、なんでワタシがメイド? と思ったけど。
同性なら浴室や寝室にいても自然だし、護衛向きの女性は少ない。
セキュリティ担当として、メイドという偽装は合理的だね」
アイリスは一瞬、意外そうな顔をしたが、すぐにいつもの太陽のような笑顔になった。
「そうですね。……ミントさんにメイド服を着せたかったわけではなく、公務のためです」
「今、目が泳ぎませんでしたか?」
住み込みの仕事のため、衣(メイド服)食住は保証される。当然給料も出るので、悪い条件ではない。
造船所とのやり取りやクルーの募集に専念出来ないが、トレードオフだろう。
ある日の学園の談話室。
訪問者がいると呼び出され向かった先には、見覚えのある凛とした佇まいの女性に出迎えられた。
「お久しぶりです、ミント様」
女剣士ヘレンだった。彼女はスタンピードの際に呪いの鎧に操られていた。
「罪は償って参りました。恩に報いるため、貴女に剣を捧げます」
深く頭を下げられた。
「思ったより早かったね」
「この国には『剣闘士制度』があります。剣闘という見世物で、刑期を短縮できます。そして、私は武門の家系」
と胸を張るヘレン。
どうやら、文字通り力ずくで自由を勝ち取ってきたらしい。
その実直すぎる申し出に、ミントは肩をすくめた。
「ありがたい申し出だけど、今は冒険者はお休みしているの。
アイリス王女陛下の護衛メイドという仕事で動けない」
目に見えて肩を落とすヘレンにミントは代案を提示した。
「……でも、別のプロジェクトなら手伝ってほしいの」
ミントは、現在進めている「北前船プロジェクト」――大陸の物流を書き換える航路開拓計画を説明した。
「……わかりました、お手伝いします」
彼女には、呪いの鎧はレアメタルで素材として良い値がつき、船の建造費になったことは黙っておこう。
自らを苦しめた呪具が、船の資金源になっているのだから。
そんなミントの平穏な日々は、アイリスの突然の言葉で破られた。
「ミントさん、『闘技大会・従者部門』にエントリーしておきましたから」
朝のティータイム。
アイリスが事も無げに放ったその一言で、カップを口に運ぼうとしていたミントの指が停止した。
「理由をお聞かせください」
「あら、裏庭で熱心に練習されてましたから、てっきり大会に向けての調整なのだとばかり」
ミントは内心で舌打ちした。彼女がしていたのは「練習」ではない。
彼女の銃術プログラムは、本来は工業規格で作られたサムライソードを前提としている。
だが、手元にあるのは東方のテクノロジーで作られた「刀」という、個体差の激しいワンオフだ。
重心、刃の反り、スイング時のクセ。
それらの違和感を修正し、最適化するための調整作業をしていたに過ぎない。
それが周囲の目には、大会へ向けて心血を注ぐ武芸者の姿に映ったらしい。
「ミントさんはお強いので、大丈夫です。それに二回勝てば優勝ですよ、賞金も出ますし。
それとも棄権されますか?」
アイリス王女の誘いに、ミントは紅茶のカップをソーサーに戻し計算を開始する。
「……エントリー数が少ない。
不人気なコンテンツなら、優勝賞金という『報酬』もあまり期待できないのでは?
割に合わないタスクかも」
ミントのシビアな計算に、アイリスはクスリと笑う。
「ご心配なく。ミントさんは既に『Bランク冒険者』、だから予選は免除して準決勝からスタートです」
世界初の大型船を建造する、造船プロジェクトの予算はいくらあってもいい。
「……わかりました。参加します」
ミントにとって、この大会は名誉のためではなく、単なる「資金調達イベント」へと一瞬で再定義された。
「頑張ってくださいね、ミントさん」
と激励された。
鏡に映るのは黒髪、メイド服、刀、ミラーグラスというサブカルチャーなビジュアルのミント。
お約束とミントの感想
・学園に通いだす:学校にコネを作りに行くって、現代の経営学修士みたい
・日本刀は最強の刃物:単純に振り回せばいいわけじゃないから、取り扱いがピーキー
・黒髪は貴重:護衛としては目立つし、誘拐の可能性もあがる




