第9話:学園編:武闘派メイドミッション?1
数時間後、王城の一室で、ミントは鏡に映る自分の姿を見て、これ以上ないほど目を細めていた。
「……どうして、こうなったのかしら」
フリルが過剰なブリム、光沢を抑えた漆黒のワンピース、そして実用性を完全に度外視した純白のエプロン。
「ミントさん、とってもお似合いです。くるっと一周回ってください」
「ミント、カワイイ!」
どうして、こうなった?
背後で満足そうに頷くアイリス王女と、当然のようにソファを占領しているドラゴン幼女のラム。
「公認する条件ーー私、学園に通うことになりました。
なのでミントさんにはメイドとして身辺警護をお願いしますね」
「いや、護衛じゃなくてなんでメイド?」
「では、この話はなかったことに」
「謹んでお受けさせていただきます、一年間だけ」
「残念ですが、プロジェクトがありますものね。では、早速試着しましょう」
回想、以上。
「次は夏服ですね。白ベースに透け素材、スカートは短めにして。そう、肩も出したデザインにします?」
次々と提示される身辺警護用とは思えない露出度の高い設計図に、ミントはこめかみを押さえた。
「護衛としての防御力はどうなります?」
「あら、いざという時に熱中症で倒れたら困るでしょう?」
「一理あります、が」
王女のもっともらしいロジックに、ミントのエンジニア脳がわずかに屈服する。
だが、アイリスが次に差し出した「インナー」を見た瞬間、ミントが凍りついた。
「下着は透けないよう、肌なじみの良いものを用意させました」
王女の用意した下着には、見覚えがあった。そう、スタンピードのときの呪いの鎧の美人、ヘレンが身に着けていた。
実用性と扇情的なデザインが高度に融合した、オーバースペックな下着だった。
「どうかされました?背伸びしたいお年頃ですか?もっと大胆なデザイン(セクシー系)の方がいいですか?意中の殿方でも?」
下着デザインのテクノロジーツリーは順調に発達していたようだ。ガイアの介入が疑われる。
「違います」
「冗談です。しかし、黒髪と白い服のコントラストはいいですね」
「この国で黒髪は珍しいですよね?護衛として目立つし、染めるか脱色しましょうか?」
ミントの提案に、アイリス王女は即座に首を振った。
「いけません、力の象徴なのです」
「どういう意味ですか?」
「ステータスシンボルです。
我々には黒髪という、珍しい人材を雇うだけの国力があるという象徴です。それが魔力なしでBランクになった希少な人材となれば尚更です。例えば、そうですね」
王女は部屋に飾られていた、優美な反りと、漆黒の鞘を持つ一振りの得物を手に取った。
「この剣は東方の異国からもたらされたもの。鞘は艶のある純黒、刃は磨きあげられとても美しい。
ですが、武器としては騎士団の誰にも使いこなせませんでした。
アイリスは愛おしそうに鞘を撫でた。
「しかし、この『誰も扱えない高価な剣』を部屋の飾りにできるだけの余裕。それこそが、王家の威光を印象付ける。
……貴女の黒髪も、それと同じ役割を果たしていただく必要があります」
ミントは納得したように頷くと、王女が持つその「飾り物」を指差した。
「その剣、護衛のために譲ってはいただけませんか?ちょうど、近接用のサブウェポンを探していたの」
「騎士団の誰も、まともに扱えませんでしたが」
「形が違うから扱い方が違うんです。刃筋を立て、引切りしないといけない」
「ミント、物知り」
と、ラムが感心したように言う。
「王族なら優秀な家庭教師を雇って、城内で個別教育を受ければ済む話じゃない?
わざわざ、不特定多数がひしめく学園に通うと安全上のリスクが増えるだけだと思います」
ミントの当然の疑問に、アイリスはいつもの余裕ある微笑みで答えた。
「学問を修めるだけなら、それで十分でしょうね。
ですが、ここは単なる学びの場ではないのです。他国の有力者や貴族、王族との接点を作っておくこと。
それが将来の外交ルートを構築するのです」
「……なるほど。知識の習得ではなく、ネットワークがメイン(コネ)というわけね」
「だからミントさんにメイドをお願いしたのです」
「納得しました」
こうして始まった学園生活。
ミントは、馬車襲撃事件の首謀者が動くなら、王女が城外に出るこのタイミングだと身構えていた。
1.王女に取り入って、権益を得ようとする
2.継承順位を巡る排除の動き
この2つの評価軸で分析・警戒を続けていた。
だが拍子抜けすることに、何事もなく一週間が過ぎた。




