第8話:ミントのパンガイア大陸リブート計画2
「あの馬車の襲撃時、護衛たちが文明レベルの割にポンコツ(低スペック)に見えた理由もこれだ。
魔法による『遠見の水晶』や『念話』という代替品があるから、
誰も信号や望遠鏡のレンズを研究しようなんて思わない。
ワタシがここで無双できるのは、魔法のない文明が導き出した『別解』を知っているからに過ぎない」
ミントは冷徹に、この世界の「技術的負債」を考える。
「高度に発達した科学は魔法と区別がつかないと言うけれど、決定的な差が一つだけある。
魔法は誰にでも使えるわけじゃない、私みたいに魔力がない人間も一定数いる。
科学は誰でも実行できる、決定的な差はそこにある」
「?」
不思議そうな顔で見上げてくるラム。
「いや、お手柄だよ」
「?でしょう」
ラムは満足げにミントの胸元に頭を預けてきた。撫でろということらしい。
「お待たせ、ラムちゃん」
先輩冒険者がコップに水を入れて戻ってきた。
ミントは彼女に問いかける。
「正確な世界地図はある?」
案内されたのは、エントランスの壁に掲げられた巨大な羊皮紙だった。
その地図を見て、ミントはさらに確信を深めた。
「パンガイア大陸って、やっぱり」
地図には巨大な一塊の大陸と、周囲を囲む海しか描かれていない。
パンは単一、ガイアは大地を意味する。パンゲアは地球史における単一超大陸。
「他の大陸は? 大きな船は? 外洋を航海する大型船や遠洋漁業」
「他の大陸? おとぎ話には出てくるけど。海にも魔物は出るし、漁師さんの船くらいしかないんじゃないかなぁ」
世界は単一大陸。文明は魔法というモノカルチャー。
競争相手もいなければ、物理的な断絶によるガラパゴス的な進化も起きない。
資源の呪いならぬ、「魔法の呪い」によって、世界全体が巨大な停滞状態にあるのだ。
「……停滞を再起動するには、外部からの刺激が必要ね。
陸路が停滞しているなら、海路を開放すればいい。ギルドの情報伝達や物流の速度を引き上げる!」
一つのギルドが規約改定しても、それが世界中のギルドに同期されるまで馬車で何ヶ月かかる?
このままではデバッグ作業はいつまで経っても終わらない。
個別のバグ修正から、世界というシステム全体の「通信プロトコル」を刷新する。
その壮大な計画を口にするミントの瞳には、冷徹な計算と、エンジニアとしての確かな情熱が宿っていた。
「江戸時代の北前船のように、商売をしながら各地の情報を伝達させ、
物流の速度を物理的に引き上げる。船に乗る商人になろうかと思う」
「ミント面白い!」
膝の上から降ろされたラムが、愉快そうに笑う。
「そうと決まれば、王城へ行こう。使えるコネは全部使う」
王都の中央にそびえ立つ王城は、白亜の石材と青い尖塔が調和した、絵画の題材のように美しい建築物だった。
王城の衛兵に通門証とBランク冒険者の身分証を提示すると、驚くほどスムーズに案内された。
スタンピードを鎮圧し、FからBランクへ飛び級したミントの名は、既に認識されていた。
アイリス王女が待つ謁見の間へ続く扉は、重厚な彫刻が施された金色の観音開き。
中は陽光が射し込む穏やかな空間、最低限の近衛兵と王女と利発そうな少年に迎えられた。
「ミント様、お久しぶりです。お元気そうですね。こちらは私の弟(王子)。
ええと、そちらの可愛らしい方は、妹様……?まさか、そんな、娘さん?」
眩しい笑顔でアイリス王女が冗談めかして問いかけてくる。
ミントの服の裾をぎゅっと掴み、不安そうな「子供」を完璧に演じて後ろに隠れている幼女ラム。
王女の庇護欲も振り切れているようだ。
「ワタシの身内なら、ツノは生えていないです」
ラムには髪で隠れる程度の小さなツノが生えている。
「冗談です。初めまして、愛らしいお嬢さん」
アイリスが腰を落として視線の高さを合わせると、
ラムはミントの陰から「きょとん」とした顔で顔を出した。
「……ラムです。ミントに拾われたの」
「拾われた……? まあ、なんてお可哀想に」
ミントは盛大な溜息をついた、拾ったというか撃墜が正確だ。
アイリス王女が話を続ける。
「ミントさんの活躍は伺っております。スタンピードで統率者まで無力化されたとか」
「おかげで、一気にBランクまで昇格しました」
討伐数が一番で、それにスタンピードで倍率がついた結果でもある。
「それで、近況報告というわけではないのでしょう? 私はそれでも構いませんが」
「ビジネスプランの提案です。それも、この国のインフラを根底から書き換える(リブートする)」
「……なるほど。では、弟に聞かせるには少し早すぎるお話になりそうね」




