第7話:スタンピード編(はじめての誤算と膝の上の居候)2
「アンチマテリアルライフルを女神から貰えば良かったな。だが、硬い鱗を避ければいい」
ミントはレーザーを収束させ、ドラゴンの翼幕に穴を開けた。
程なくしてドラゴンが地面に着地する。
「機動力は奪った、あとはドラゴンキラー志望の諸君に任せよう」
再度文字通りの高みの見物を決め込もうとしたが、血相を変えた伝令が飛び込んできた。
「翼に穴を開けたヤツを出せ! 出さないと町を滅ぼすとドラゴンが吠えてます!」
「また一騎打ち? ——いや、言葉が通じるなら話し合いは出来るはず」
ミントは渋々、城壁を降り、ミントとドラゴンは対峙する。
それは、生き物というよりは、巨大な重機か重戦車でも目の前にしているような圧倒的な質量。
街を滅ぼすというのは脅しではないかもしれない、圧倒的な暴力の化身。
ドラゴンが憤然と言う。
「貴様か! 妾の翼を撃ち抜いた愚者は!スタンピードの見物に来たら、翼に穴を開けるとは!」
ミントはその場に崩れ落ちた。
「じゃあ、ただの野次馬を攻撃したってこと? 好奇心は考慮してなかった」
ミントは立ち上がる。
「無警告で飛来したから、防衛のために先制攻撃したことは理解して欲しい。
けれど、貴方が敵でないことを見抜けなかったのは、ワタシのミス。謝罪します」
ミントは頭を下げたまま、言葉を続ける。
「原状回復、つまり翼が回復するまでの費用は全てこちらが負担する。これで納得してもらえませんか?」
平原に地響きのような笑い声が響いた。
「交渉、決裂?」
「お主、実におもしろいのう! 妾を地に落とすほどの力を持ちながら、それに溺れず頭を下げるとは」
ミントが顔を上げると、そこには巨大なドラゴンの姿はなかった。
ピンクブロンドの髪に小さな角を生やし、大きな瞳に幼さを強調した丸い輪郭。
つまり幼女が立っていた。
「ラムだよ。翼が回復するまでお世話、よろしくね」
というと、元ドラゴンの幼女は両手を前に突き出した。
「痛くて動けないから、街まで運んで」
ミントは溜息をつき、その小さな体を抱え上げた。
ドラゴン幼女のラムは、見た目通りの体重だった。
「……お安い御用です」
抱き上げた時に伝わってくる、ミントより少しだけ高い体温。
「人が本能的に『守るべき対象』と認識する要素を抽出したような、ペットロボットに通じるデザイン。
……理性ではこれが生存戦略だと理解していても、抗いがたい」
ミントはつぶやいた。
ギルドに戻ると、ギルドマスターがドラゴン幼女を指差して絶叫した。
「り、龍人族!本物か? 」
ミントは大声に眉をひそめた。
「なにそれ?」
「人間の知恵とドラゴンの破壊力を併せ持つとされる上位種……!」
と、ギルドマスターが答える。
「知恵ーーワタシの仮説だけどね。
常時ドラゴン形態だとカロリー消費が膨大すぎる。だから非戦闘時は省エネモードに移行する」
「ミント、面白いね」
気を良くしたのか、ミントが続ける。
「省エネモードは本能的に庇護欲をくすぐる見た目。本当によくデザインされた、生存戦略よ」
ミントはギルドマスターと対面の椅子に座る。
ラムは当然のようにミントの膝の上に鎮座し、この場の支配者のような顔をしている。
ミントは深い溜息をつく。
「ラムがこの姿のまま街に来てくれたら、ワタシは攻撃しなかったよ」
「――そうね」
ミントは気を取り直し、ギルドマスターに本題を突きつけた。
「さて、30年周期のスタンピードについて、根本解決の話をしましょう。
この子とスタンピードは無関係、なら他の原因は?」
ギルドマスターが顎を撫でながら答える。
「……やはり、ダンジョンがあふれ出した、か」
「無限にモンスターが湧く、ということはアイテムが無限に生成されるってことでしょう?
仕組みは理解できないけど、入り口を塞げない?」
「いや、モンスターのドロップアイテムでしか手に入らない素材がある。
今度は素材不足という問題が起きる」
ミントは腕組みをする。
「では、ダンジョンの入り口を巨大な堀と壁で囲む。他の入り口は閉鎖。入り口を一箇所に限定し、そこを『キルゾーン』に作り変える。魔物が溢れ出しても、上から一方的に攻撃できる。数十年に一度の『氾濫』も、ワタシたちにとっては準備万端で迎えるだけのボーナスイベントになる」




