表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/89

第八十五話 邀撃

大蜘蛛丸一味を真貴が率いる佐閑の里は全員で迎え撃つ

 真貴と正季は番小屋に移動した。秀柾も弓矢を持って駆け付けてきた。

「では、火矢を」

 真貴の指示に秀柾と重平がうなずき、各々火矢に火を点けた。何度も練習した位置に立って放つ。赤いい飛跡が闇に伸びた。

 すぐに狼煙台が燃え上がる。

 村の柵の出入り口付近に、十人あまりの男たちがいるのが分かって来た。


 真貴がうなずくと、重平が首に下げていた呼子を、短く三回吹いた。

 土塁に陣取っていた村の男たちが立ち上がり礫縄を振り回しては礫を村の入り口に向け放ち始めた。


「小癪なーっ!ものども怯むなっ!」

 大蜘蛛丸は配下を駆り立てて斜面を駆け登ろうとした。

 呼子の音がした。

 斜面の上、燃える櫓の向こうの闇から何かが飛んで来て、顔の近くをかすめた。すぐ後ろにいた手下の胴丸に当たり鈍い音がした。

(礫か……)

 そこからは、次々に礫が飛んできた。気が付くと、手下の一人が顔を抑えうずくまっている。また鈍い衝突音がして、もう一人、頭のあたりを抑えて倒れた。

「腰を落とせっ、顔を上げるな。退くなっ!」

 大蜘蛛丸自身、姿勢を低くして、礫が収まる機会をうかがった。


 真貴が重平に小さく合図を送った。重平が呼子を長く一回吹く。村人たちが、いったん礫を止めた。


「おのれーっ、殺すっ」

 礫が収まったところで、大蜘蛛丸は立ち上がった。手下たちも立ち上がり再び前進を始めた。

 また、呼子の音がして、続けざまに礫が飛んできた。大蜘蛛丸は、密集隊形を狙われたと気づいた。

「散れー、散って、駆け上がれ」

 

 真貴は一味の様子を観察していた。密集隊形のまま突入してくることを予想していたが、散開に転じたことが分かり、重平に合図を送る。呼子が鳴り、村人たちは土塁から離脱し、寺へと走る。秀柾と重平が左右の土塁に走り込み、弓射を始めた。正季も弓を取り、狙い撃った。


 真貴が戦況を見つめていた。低い姿勢で登ってくる者がいる。傍らの正季に声をかけた。

「橘様、ご加勢ください。駆け上がってくる者を、斬ります」

 正季も戦況から目を離さずに答えた。

「相分かった」


 手下が散ろうと動き出したところに、矢が飛んできた。一人が射抜かれ、もんどりを打って倒れた。大蜘蛛丸が、矢が来た方向に向き直った次の瞬間、別の方向から矢が来た。別の手下の足に矢が刺さっている。

(失敗だ……)

 大蜘蛛丸は悟ったが、同時に、憤怒が抑えられなくなった。

 唸り声をあげ、再び、斜面を駆け上がり始めた。


 ユイとセイは、木を叩く音が響きだすと、子ども、女、年寄りたちを導いて寺に集めた。寺に集めた。男たちは皆、戦いに出た。寺に集まったものは良真和尚の背後に並び、仏に、ひたすら身内の無事を祈った。


 二人とも、戦いとは、怒号と金属のぶつかる音に満ちるものと思っていた。しかし、木を叩く音が途絶えた後、呼子の音が何回かし、遠くに声がしただけで、ほとんど、音は聞こえなくなった。


 しばらくすると、村の男衆が戻ってきて、寺の周囲の守りに就いた。顔は強張っているが、誰も血は流していなかった。


 ユイは真貴が心配だった。それと、我慢できない衝動が突き上げてきた。腹違いの兄と知り、大蜘蛛丸の姿を、確かめずにはいられなくなった。 


 セイは異様な雰囲気に泣き出した子どもを抱いて慰めていた。ユイがどうしているかを見ようと顔を上げたが、ユイの姿が見えなくなっていた。


 真貴と正季は番小屋を出た。真貴が左に動き、正季は右に開いた。

 

 火勢がいくらか衰えてきた狼煙台を背景に、二人の男が駆けあがってきた。

 

 正季は自分に近い側の男に向かった。男は裸の上に直接胴丸を身に付け、腰に猪の毛皮を巻いていた。目を見開き、雄叫びを上げて正季に迫ってきたところを、正季は右肩に太刀を引き、斜めに構え、踏み込んで男の右腕の付け根を切りつけた。男が倒れ痛みに転がりまわる。


 正季は真貴を見た。


 真貴に向かった男は背が高かった。太刀を振りかぶり、一足飛びに迫り、真貴に叩きつけようとしていた。正季が、まずいと思った瞬間、真貴は低い姿勢から、左手だけで太刀を握り、突きを放った。男の喉元に太刀の刃先が突き立った。真貴は素早く太刀を引き、前に構え直した。男はそのまま倒れた。正季が見たこともない太刀捌きだった。


 大蜘蛛丸は、斬り合いにさえなれば、少々手練れの武者でも倒せると思っていた。薙刀を持つ大柄な配下を盾にして村への斜面を登っていた。


 自分のすぐ前を進んでいた男の動きが止まった。肩口に矢が突き立っている。動きが止まり棒立ちになった。別の方向から飛んできた矢が、男の首筋に刺さった。男はあおむけに倒れ、大蜘蛛丸は巻き込まれて倒れた。


 大蜘蛛丸は這いつくばった姿勢で、先行して村に突っ込もうとした二人の様子を見ることになった。斜面の上で待ち構えていた武者は、二人を、いくらも刃を交えないうちに倒した。


 周囲を見渡し、振り返ったが、まともに戦うことができそうな配下は、もういなかった。

(ここは……逃げよう)

 大蜘蛛丸は、傷つき動けなくなったふりをして、この戦いの場から、離脱する機会を狙うことにした。


 ユイは村人の目を盗み、番小屋に向かった。番小屋には犬は繋がれていたが、人はいなかった。

 まだ、狼煙台の火は消えてはいなかったが、火勢は衰えつつあった。

 真貴と正季が、抜身の太刀を手に、斜面を降りていくのが見えた。


 真貴は避けられない危険な状況に入ったと分かっていた。


 野盗たちには傷を負わせることには成功したが、どの程度、戦う力を奪ったのかはわからない。倒れているようでも、起き上がり、立ち向かってくる恐れは十分にある。正季も同様に警戒しているのが分かる。二人は、ゆっくりと倒れている男たちに近づいて行った。


 ユイは番小屋を出た。姿勢を低くして、真貴の後を気づかれないように追った。顔に古傷があるという大蜘蛛丸の姿を一目見たら、すぐに寺に戻ろうと思っていた。


 正季は二間ほど先に、太刀を杖にして立ち上がろうとしている男がいると気付いた。倒そうと近づくと、その傍らで顔を血で染めていた男もむっくりと立ち上がった。


 真貴は、少し先に倒れている薙刀を持った男の様子を見ようとしていたが、正季の側に動きがあることに気が付いた。二人が立ち上がり、正季と向かい合っている。真貴は、正季に加勢しようと動いた。


 大蜘蛛丸は二人の武者が、太刀を抜いたまま近寄ってくるのを薄目を開けて見ていた。おそらくは、倒れている自分ら一人ずつを検分して止めを刺すつもりだろうと分かった。いよいよ近づいたら、跳ね起きて反撃しようと様子を窺っていた。


 いきなり、自分の左手で動きが出たのが分かった。自分の方に向かっていた武者が、左手に向かった。そのとき、その背後に少女がいた。

(天祐だ)

 大蜘蛛丸は、薙刀を掴んで立ち上がった。


 ユイは目の前に転がる矢が刺さった大男の影から、痩せたがっしりした男がいきなり立ち上がるのを見た。暗くなりかかった狼煙台の火が、その顔を照らした。顔の左半分を縦に走る大きな傷かある。

(大蜘蛛丸!)

 ユイは、その右目に射すくめられ動けなくなった。


 真貴は背後の動きに気付き振り返った。

 顔に傷がある男が、薙刀を持って立ち上がっている。そのすぐ後ろにユイがいる。

 男が吠えた。

「動くな!動くと斬る!」


 正季が叫ぶ。

「巫女殿はその子を!この二人は、私が倒す」

 秀柾が弓を持って駆けてきた。

「弓を捨てろ!この子を斬るぞ。太刀も捨てろ、下がれ」

 大蜘蛛丸がユイの後ろに回りながら叫んだ。


 秀柾は真貴を見た。真貴が小さくうなずく。真貴は太刀を、秀柾は弓を足元に置き、ゆっくり下がる。


「娘、そのままゆっくりと下がれ。前に動いたら斬る!」


 大蜘蛛丸はユイを盾に取り、斜面を下り始めた。少し進むと、大蜘蛛丸はユイの襟足を左手で掴み、引きずるように柵の出入り口に向かい出した。

 

 また一人、野盗が立ち上がった。秀柾は、太刀を抜いて向き直った。


 狼煙台の火が消えた。


 真貴は太刀を拾い、大蜘蛛丸を追った。


大蜘蛛丸はユイを人質に取り逃げ出した

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ