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第六十三話 特産品

佐閑の厳しい冬の間も真貴の活動は続く

村を豊かにするには特産品が必要だと真貴は考えていた

 真貴とユイは、この冬も紙作りに挑んだ。


 昨年は、試行錯誤の末、厚さが不均一で凹凸のある丸い紙を三枚漉き上げるまでで精一杯だったが、この冬は、前回の経験を活かし、丸い紙を十枚漉き上げた。厚さもかなり均一となり、介在物も減り、品質が向上してきた。


 ただ、今後、紙を村で生産していくためには、目の細かな竹製のをはじめ、いろいろと入手すべき道具類が必要であり、市場で、その道具類と交換できる価値があるものを準備する必要があった。真貴は、紙漉きの道具以外にも、村内では生産できない塩、布類などと交換できる品が必要と考えていた。


 今のところ、真貴が交換に供することができる品は薬草類である。次の春には菜種油も採れるが、その量は、まだ少ない。米、麦、雑穀類は市場に持って行けば買い手はつくが、どこの村でも作っている物であり、市場価値は高いとは言えない。


 村で生産ができ、市場で高い評価を期待できるものがないかを、真貴は考え続けていた。


 その日の朝、ユイが、干し柿の残りの数を丁寧に数えて、真貴に言った。

「真貴様、この冬の、子どもたちに干し柿を配れるのは、あと二回までのようです」

「数えてくれたのね。ありがとう」

「はい。私もですが、子どもたちは干し柿が大好きです。配るときに足らないとなると、大変なことになりますから」

「やはり、子どもは、甘いものが大好きですね」

「子どもだけではないと思います。大人も甘いものが大好きなのではないかと思います」

「たしかに、そうね……」


 真貴は千年後の世界、龍口家で口にしたいろいろな甘味を思い出した。親友の結衣の祖母、美和子がいろいろとおやつを用意してくれた。美和子は和菓子を好んで用意してくれたが、和菓子に欠かせない餡の材料となる小豆や砂糖は佐閑の里はもちろん諏訪でも入手は難しかった。美和子は手作りのおやつも大事にしていた。干し柿の作り方は、真貴が龍口家の世話になりはじめた翌年の暮れに教わった。


 真貴は、ふと、中学に入った年に、美和子とともに時間をかけて作ったおやつを思い出した。そのときの、きわめて素朴な原料から、想像もできなかった甘味ができた感動も思い出した。


 真貴は記憶を頼りに再現に挑むことにした。


 秀柾が収穫した麦二合ほどを水に浸す。時々水を替え、二日待ってから、浅い桶に移した。囲炉裏端の灰に桶を置いて、乾かないよう時々水をかけ上下ひっくり返しながら三日が過ぎた頃、麦は根を出す。五日目が終わり、麦の粒が柔らかくなったのを確かめてから、根を出した麦粒を鉄鍋に移す。はじめは囲炉裏の遠火でじわじわと、最後は熾火に少し近いところで、素早くかき混ぜながら乾燥させる。次は、少しばかり出ている根を取り除かなくてはならない。美和子は電気精米機であっというまに終わらせたが、真貴は一粒ずつ丁寧に手作業で根を取り除き、石臼で挽いて粉にした。


 次に真貴は緩めの米粥を焚いた。粥を入れた鍋が手で持てるくらいまで冷めたところで、先に作った粉を入れてよく混ぜる。鍋が冷めないように、熱くなり過ぎないように気を張りながら、ほぼ半日、ユイと交替でゆっくりゆっくり掻き混ぜ続ける。


 半日経った頃、二人は味見した。柔らかい甘さが口に広がった。二人は顔を見合わせて笑った。


 真貴は晒で甘味を増した粥を絞り、甘汁と滓を分けた。むろん滓も甘いおやつになる。二人は甘汁を鍋に移し、煮立たないよう気をつけながら、囲炉裏の火でゆっくり煮詰めていった。そして遂に琥珀色のトロリとした水飴が出来上がった。


 水飴を箸の先につけ口にしたユイが目を丸くした。

「真貴様、これは!」

「美味しいですか?」

「京で口にしたことがある菓子も含め、一番美味しいです。食べたことがない甘さです」

「よかったです。手間はかかりますが、これなら、村で手に入る食材だけで作れます。諏訪の市で、いろいろなものと交換できるでしょう」

「村の子どもたちにも食べさせたいです」

「そうしましょう、箸につければ、皆に分けてあげられるでしょうね」


 真貴は薬草の仕事に戻ろうとして気が付いた。冬のこの時期は風邪薬の原料になる葛の根に豊富に澱粉が集まっている。この時期なら葛粉を作ることができる。昨年は大豆もまずまずの収穫だったので、大豆を煎って粉に挽けば、きな粉も作れる。これらに水飴を併せれば、美和子が特別なおやつと言っていた「葛切り」を作ることができる。


 真貴は姫が生まれた風間家への祝いの品に「葛切り」を用意しようと決めた。


 真貴は秀柾に協力を求めた。二人で山に入り、できるだけ根が大きな葛を見つけ掘り起こし持ち帰った。ここからは力仕事と根気仕事になる。大きな石を台にして、葛の根を叩いて細かく砕く。これを晒しの袋に入れ、冷水を張った桶で繰り返し揉んで、濁った薄茶色の樹液を絞り出す。

 この絞り汁から茶色がかった白い粉がしだいに沈殿するので、上澄みを捨て、新しい水を入れ、再度沈殿させる。この作業を何度も十日余り繰り返す。いわゆる葛晒の工程である。こうして得られる純白の沈殿物こそが葛粉である。


 真貴とユイは根気よく作業を続け、葛粉を作り貯めた。


真貴は千年後の世界で口にした「葛切り」の再現に挑む

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