Episode 9 「あなたを、この場で“氷漬け”にしますッ!!」
――“氷の公爵”、過去イチの暴走。
わたしを庇うように立ちはだかるルカ様。
その目はもう普段の穏やかさも、丁寧な礼節も一切ない。
あるのは――むき出しの怒りと、私を守ろうとする本能だけ。
「怖い顔だよ、ルカ。そんなに僕が気に入らない?」
レオニール様は挑発的に微笑み、わたしの机に軽く腰掛け、脚をぶらりと揺らす。
「気に入らないどころではありません⋯⋯っ」
ルカ様はズドン、と床を踏み鳴らすように一歩踏み出した。
(ひっ……!? ルカ様、本気で怒って……!)
「エルをこれ以上……惑わせるなッ!!」
瞬間、彼の声が図書館全体に響いた。
紙の束が震え、ランプの炎が揺らぐ。
「ふふ……惑わせてるのはどっちなんだろうね?」
レオニール様がわざとらしく肩をすくめる。
その青い瞳は、わたしのほうをちらりと見る――挑発的に、甘く。
「……君、さっき僕に触れられたとき……ほんの少し、震えたよね?」
「っ……!」
言われた瞬間、顔が熱くなる。
(や、やめて……!)
「黙れッ!!」
ルカ様が吠えるように叫んだ。
普段の冷たい声とは違う。
むしろ熱く、爆発した感情に濡れた声。
「エルが怯えてるだろう……っ!!」
「怯えてる? それは違うよ、ルカ」
レオニールは笑う。
机から降り、ゆっくりとこちらへ歩み寄る。
「彼女は……“感じて”いただけだ」
「レオニール殿下ッ!!」
ルカ様の足元の魔力が弾け、床をひび割らせる勢いで立ち上がった。
「――殿下といえど、許さないッ!」
わたしはびくっと震えた。
そのとき、レオニール様がさらに一歩、わたしへ近づく。
「怖がらなくていいよ、エル嬢。僕は君に触れたいだけだ」
「触れるなッ!!」
ルカ様が腕を伸ばし、わたしを抱き寄せた。
その腕は震えている。
怒り──そして、
(──独占欲……!?)
「エルは……私が守る。どこの誰にも……指一本触れさせない……っ!!」
「へぇ……ずいぶん強い言葉だね」
レオニール様はゆっくり、ニヤリと笑った。
「エル嬢。君は誰に抱き寄せられたほうが“心臓が跳ねる”んだろうね?」
「っ……!!?」
(なっ、何言って……!)
ルカ様の腕の力がさらに強くなる。
「レオニール殿下。これ以上……エルを侮辱する発言を続ければ」
ルカ様は一度、深く息を吸い――そして叫ぶ。
「――あなたを、この場で“氷漬け”にしますッ!!」
温度が一気に低下した。
比喩ではない。
本当に、息が白くなるほどに。
「──本気だね、ルカ。⋯⋯流石は水属性の上位版、氷属性」
レオニール様は楽しげに笑うが、軽く後ろへ一歩下がった。
「エル嬢。君を奪い合う夜なんて、僕は嫌いじゃないよ」
そして、くるりと踵を返し、
最後にわたしへ甘すぎる微笑を向ける。
「──また会おうね。今度は、君が逃げられないときに」
「なっ……!」
レオニール様は静かに図書館を出ていった。
扉が閉まると同時に、わたしの膝ががくりと崩れる。
「……エル? ⋯⋯エル、大丈夫でしたか……?」
ルカ様が腰を下ろし、わたしを抱きしめてくれる。
腕に力が入りすぎていたのか、わたしを抱く手が震えていた。
「る、ルカ様……わたし……」
顔を上げると、
ルカ様はわたしを見下ろし――
普段見せないほど切なげな、苦しげな目をしていた。
「……どうか、怖かったら言ってください。私が、全部……終わらせますから……」
その声に、わたしの心臓は完全に崩壊した。
水属性の上位版が氷属性。
火属性の上位版が焔属性。
それ以外の属性の設定は未定です。
エルは風属性です。




