Episode 8 ルカ様vsレオニール様
図書館の空気が一気に張り詰めた。
わたしの両脇、レオニール様とルカ様――二人の目が、まるで夜空の星のように鋭く光る。
「ルカ……そこまで緊張しなくても」
レオニール様はゆったりと笑う。ゆっくりと、わたしに近づく。
「……エル嬢は、僕の夜の楽しみのひとつなんだ」
その声に、わたしの心臓が跳ねる。
目を逸らすと、甘く、しかしぞくりとする言葉が耳元で響く。
「……やめなさい、レオニール殿下」
ルカ様の声は低く、氷のように冷たい。肩をそっと掴み、わたしを後ろに引く。
「僕は何もしてないよ。エル嬢を見てるだけだ」
レオニール様は微笑む。その笑みが、わたしの胸をきゅっと締め付ける。
わたしは思わず後ずさる。両手で胸を押さえ、なんとか平静を保とうとする。
「……わたし、こんなこと……」
声が震える。
「エルは、私が守る」
ルカ様が間に立ち、視線を鋭くレオニール様に向ける。
その緊張感に、図書館の空気がまるで凍りついたかのようだ。
「ふふ……その“守る”っていうの、面白いね」
レオニールは挑発するように笑う。
手を軽く胸に置くジェスチャーをして、わたしの視線を引き寄せる。
(やだ……目が離せない……!)
「レオニール殿下……!」
ルカ様の声が鋭く、体が震える。
その氷のような冷静さと力強さに、わたしは思わず息を呑む。
「でも、君が見たいのは、僕の顔じゃないの?」
レオニールが笑い、わたしの目の前で少し身を乗り出す。
その距離に、わたしの心臓は暴走しそうになる。
「……エル、後ろに! 危ない!」
ルカ様が突然、手を伸ばし、わたしを自分の後ろに隠すように抱える。
その腕の強さと温かさに、わたしの頬が熱くなる。
「ふふ……なるほど、ルカは本気で守るんだね」
レオニール様はその様子をじっと見つめ、口元にわずかに笑みを浮かべる。
その視線の奥には、昼間には見せない暗い光がちらつく。
図書館に三つ巴の緊張が張り巡らされ、
わたしはその中で、どの方向にも逃げられず、ただ胸の高鳴りを感じていた。
ランプの光が三人の影を長く伸ばし、
夜の静寂はまるで二人の戦いを見守るかのように、じっと佇んでいる。
しばらく沈黙が続いた。
しかし耐えきれなくなったのか、図書館の静寂を切り裂くように、ルカ様の声が響いた。
「――もう黙ってられないッ!」
その瞬間、ルカ様の瞳が燃えるように赤く光った。
普段の冷徹な“氷の公爵”の姿は消え、目の前にあるのは全力でわたしを守る守護者だ。
「レオニール殿下……手を引け。エルは、絶対に渡さないっ!」
ルカ様はわたしを抱きかかえるようにして、一歩も動かない。
その腕の強さと熱さに、わたしは思わず息を詰める。
「ふふ……なるほど、君は本気だね、ルカ」
レオニール様は笑みを崩さず、しかし目は鋭く光る。
わたしの体がルカ様の腕に押し付けられるたび、胸がバクバクする。
「エル、お願いだ……危険な目に遭わせたくない」
ルカ様の声は震え、だが力は増している。
普段の落ち着きは微塵もなく、目の奥には怒りと独占欲が渦巻く。
「僕はただ……君を見たかっただけなのに……」
レオニール様は軽く挑発するように手を伸ばす。
しかしルカ様は一瞬もその手を許さない。
「――私の邪魔をするな!」
ルカ様の腕が、わたしを守る盾のようにレオニール様に向かって伸びる。
その力の強さに、レオニール様の笑みが少し揺らぐ。
(……怖い、でも……かっこいい……)
わたしの心臓は、恐怖とときめきで混乱していた。
「エル嬢、聞いてくれ……僕は、君を絶対に――」
レオニール様は、普段の、張り付いている笑顔を消し、真剣な瞳で訴えてくる。
ルカ様は、レオニール様を鋭い瞳で睨みながら、体を張ってわたしをレオニール様から完全に隔てた。
その目は、もはや公爵でもなく、ただの“守りたい男の本能”そのものだった。
「……ルカ様……」
思わず呼びかける声が、震えと興奮でかすれる。
胸の奥が熱く、息が詰まるような感覚。
「――これ以上、私の前で危険な顔をさせるな……ッ!」
ルカ様が怒鳴ると、図書館の空気が震えた。
ランプの光が二人の影を長く引き、夜の図書館は完全に三人だけの世界になる。
わたしは、ルカ様の胸に顔を埋めながら、心臓が爆発しそうな感覚を覚えていた。
その瞬間、レオニール様の挑発的な笑みが、少しだけ悔しそうに揺れる。
(……夜の図書館、これ……死ぬ……いや、でも、生きててよかった……! てかここで本来護られてるのって、ヒロインよね……!?)




