Episode 10 わたしを護りたい二人
レオニール様が去った後、図書館は再び静寂を取り戻した。
しかし、その空気はもはや「静けさ」などではなく、深い緊張と不安に満ちていた。
「……ルカ様?」
わたしは震えた声で呼びかける。
ルカ様がその腕でわたしを抱き寄せたまま、何も言わない。
彼の顔には、怒りの残像が色濃く刻まれている。
わたしの視線とルカ様の視線がぶつかり合う。
ルカ様の目の奥に、あるものが見えた。
(……この目、あまりにも切ない……!)
「……ルカ様、あの……」
わたしの言葉は震える。
自分の心臓が、今にも破裂しそうだった。
突然、ルカ様がわたしの肩を掴む。
その手に込められた力が、わたしをギュッと引き寄せる。
「……エル、今すぐに答えてください」
その言葉の奥にあるのは、切迫した思い。
「あなたにとって、私は──ルカ・メルジール・フォルディアスは、必要な人間ですか……?」
「ルカ様⋯⋯」
名前を呼ぶと、ルカ様の瞳が揺れる。
「わたしは、わたしには⋯⋯。あなたが……あなたが必要ですわ、ルカ様⋯⋯!」
心の中でその思いが溢れ出した。
――我慢できなくて、思わず名前を呼んだ。
「……エル……リウール……?」
ルカ様の表情が瞬間的に凍りつく。
「……なぜ……?」
その声が、また少し震えた。
「だって……わたし、怖かった……! あんなふうに、レオニール様が近づいてきて、何もできなくて……」
わたしは言葉が喉に詰まりそうになりながらも、続けた。
「でも、ルカ様が守ってくれるって……わかってたから……」
その言葉に、ルカ様の顔が一瞬、硬直した。
「……エル⋯⋯リウール」
彼の呼び声が、普段より少しだけ震えている。
「……私は……。私はあなたを──絶対に失いたくない」
その言葉に、わたしの胸がギュッと締めつけられた。
と同時に、ルカ様の手が、わたしの背中を強く抱きしめる。
「でも……あなたが他の男に触れられるなんて、絶対に……許せない」
その目が再び冷たい氷のように変わり、わたしを凝視する。
(……怖いけど、心の中では温かさを感じている)
その瞬間、図書館の扉が突然開く音が響いた。
重く、低い足音が近づいてくる。
「……何してるんだ」
その声は、まるで雷のように響き渡った。
振り向くと、アレクシス様が立っていた。
「アレクシス様……!」
わたしは驚きのあまり、思わず声を上げる。
「……ルカ、君は一体何をしてるんだ?」
アレクシス様の目が冷徹にルカ様を見据える。
「……アレクシス殿下、違います! 私は――」
「いいや、何も言うな!」
アレクシス様の声が、図書館に響き渡る。
「エルに何をしている!」
その一言に、ルカ様が一瞬、動きを止める。
「俺が守らなきゃいけないのは──エル⋯⋯エルリウールだ!」
アレクシス様の視線はわたしに向けられ、少しだけ柔らかくなる。
「エル、君はどう思ってるんだ?」
アレクシス様が、静かな声でわたしに問いかけた。
「わたしは……」
その言葉を口にした瞬間、胸が締めつけられる。
「……アレクシス様、わたしは……」
思わず涙がにじんだ。
でも、ルカ様がすぐにわたしを抱きしめ、アレクシス様に向けて強い視線を送る。
「エルは、私が守ります」
その声に、アレクシス様の瞳が一瞬鋭くなる。
「お前……」
でもすぐに、彼は冷徹な表情を保ったまま続ける。
「じゃあ、俺も君を守らせてもらうよ」
その言葉に、再び強い緊張が走る。
その瞬間、わたしの目に涙がこぼれそうになった。
でもすぐに、ルカ様が再び強くわたしを引き寄せる。
「エル、あなたが泣いている理由を⋯⋯私に教えてください」
その声が切なくて、胸が詰まる。
彼の手が、わたしの頬を優しく包み、指先が震えている。
「私は……あなたが傷つくのが、怖い……」
その言葉に、わたしはもう言葉を返すことができない。
「ルカ様……」
涙をこらえきれず、わたしの目から涙が流れ落ちた。
「ごめんなさい、怖かったんです……」
その言葉が、涙とともに溢れ出した。
ルカ様はすぐに優しく、わたしを抱きしめる。
「……もう、あなたを一人にしない」
その言葉が、わたしを少しだけ楽にさせた。
でも、この夜、二人の間に漂う緊張感と不安は、決して消えなかった。




