Episode 32 【魅了の加護】
本編に戻ります。
「でも、【魅了の加護】を封印したからって、油断はできないわ」
エルナが眉を寄せる。
「え?」
「王立エスタール学園での最初のルート分岐点──『加護調査』」
「──ッ!!!!!」
記憶が蘇った。
そう。エルリウール・アルカ・ショアンは、『加護調査』で【魅了の加護】持ちということがバレるのだ。
【魅了の加護】がどんな効果をもたらすのか知らない者達は鼻で笑い、知っている者達は絶望の表情を浮かべる。
悪役令嬢エルリウールが将来断罪されるきっかけとなる加護──それが【魅了の加護】なのだ。
「⋯⋯でもわたし、【魅了の加護】は封印した。もう⋯⋯大丈夫なんじゃない?」
「そうとも限らない⋯⋯。当然、【統治者の加護】持ちのアレクシス様や、【知恵の神の加護】と【氷の精霊王の加護】持ちのルカ様も脅威にはなる。でも、一番危険なのは⋯⋯」
「──【観察眼の加護】持ちの、エリオット・アルカ・ショアン⋯⋯」
「そうよ。たとえ【魅了の加護】を封印していても、【観察眼の加護】なら見破れる可能性がある。まあ⋯⋯学年違うし、大丈夫でしょうけど⋯⋯。いざとなったら、私がなんとかするわ」
わたし、ルカ様、アレクシス様、エノリス様、エルナは高等科1−A。
お義兄様は高等科2−C。
ちなみにレオニール様は中等科3−D。
お義兄様が「エルが殿下やルカに絡まれてないか心配だ」とか言って1−Aに来なければ問題はない。
あと、ルカ様たちが告げ口しなければ
「『前世の親友で、今世の従姉妹がいれば問題ないですわ!』」
「⋯⋯芝居がかってるよ、エルナ」
「──わざとよ、わざと。いつ、誰が聞いてるかわからないもの。演技は徹底的にやる派なのよ、私」
エルナ、舞台女優にでもなりたいのかな?
そんなわたしの疑問はさておき。
「⋯⋯ねえ、陽碧。『加護調査』以降の『あな薔薇』のイベントって覚えてる?」
エルナはわたしの質問に形の良い眉を寄せた。
「うーん、覚えてないわね⋯⋯。だって、“櫻井陽碧”と“エルナ・デルエーラ・ローズファルト”の記憶が混ざってるんだもの。そう簡単に処理仕切れるほどの情報量じゃなかったのよ⋯⋯」
「そっかー⋯⋯」
「ストーリーが進めば何か思い出すかもしれないけど⋯⋯そもそもこの時点でだいぶ本来のストーリーからはズレてるのよね。今後、ストーリー通りに進むか限らないっていうか⋯⋯」
「やっぱり?」
「悪役令嬢が断罪回避ルートを選ぶならズレても仕方ないわ。まあ、間違いなく、イベントは発生するでしょうけど」
「ううっ⋯⋯」
「観念しなさい、“元”悪役令嬢、エルリウール・アルカ・ショアン」
「元じゃないよぉ。将来断罪されるか、まだわからないんだよぉ⋯⋯」
「そうだったわね」
それからもエルナとくだらない話をしていると、時刻はいつの間にか七時近くになっていた。
「あら、もうこんな時間。さあ、夜ご飯を作るわよ。──あ、エル」
「どうしたの? エルナ」
「──明日の『加護調査』、気をつけなさいよ。わたくしだって手を出せないかもしれませんもの」
「ええ、わかってるわ」
そう。
『加護調査』は明日に迫っている。
絶対に、【魅了の加護】がバレてはいけない──。




