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Episode 3 “誰にでも愛される”ヒロイン

 レオニール様が去り、わたし達が校庭へ出ようとしたときだった。

 講堂の陰から、ふわりと淡い桃色の髪が風に舞い――


「きゃっ……ご、ごめんなさいっ!」


 軽い衝突とともに、小さな悲鳴が響いた。

 わたしは反射的にその子の腕を支える。


「大丈夫かしら?」


「ご、ごめんなさい……! わ、わたし、前ばかり見てて……!」


 顔を上げたその少女を見た瞬間、胸がどきりと跳ねた。


 淡い桜色に、先っぽが(くれない)色の髪。スミレのような美しい薄紫色の瞳。

 どこか幼さの残る、小柄な愛らしい少女。


 気弱そうなのに、自然と守りたくなるような雰囲気。

 気付けば周囲の生徒たちまで彼女に視線を向けていた。


「エノリス嬢……か?」

 アレクシス様がぼそりと呟く。


「ご存じなのですか、アレクシス様?」

 わたしが尋ねると、アレクシス様は小さく頷いた。


「エノリス・ヴィエラ嬢。ヴィエラ子爵の娘だ。――“誰にでも愛される”と噂の少女だよ」


 そう、ゲームで見た。

 彼女こそが、この世界の“メインヒロイン”。


「す、すみません……! わたし、あの、エルリウール様に怪我をさせてしまったかと……!」


「怪我なんてしてないわ。ほら、落ち着いて」


 わたしがそっと手を握って安心させると、

 エノリス様は、ぱあっと花が咲いたように微笑んだ。


「ありがとうございます……! エルリウール様って、とても優しい方なんですね……!」


 その瞬間――


 周囲にいた男子生徒たちがざわっと色めき立った。


「……やはり、彼女は“愛され体質”ですね」

 ルカ様の冷静な目が細まる。


「おい、今、目の前で見ただろアレ。反則級だな」

 お義兄(にい)様でさえ苦笑している。


 そして――


「⋯⋯あ〜、こんにちは、ヴィエラ嬢。初めまして」

 人混みの中から現れたのは、レオニール様だった。


 どこから見ていたのか、微笑みを絶やさず近づく。


「きゃ……! れ、レオニール様……っ! は、初めましてっ、エノリス・ヴィエラと申します!」


 エノリス様の頬がぱっと赤くなる。

 彼女は初対面のレオニール様に、心を奪われたように見えた。


「ふふ。そんなに緊張しなくていいよ。僕は怖くない」


 いつもの柔らかな微笑。

 だけど、わたしには見えた。


 ほんの一瞬――エノリス様を“観察するような”、低温の目が。


(……レオニール様……ヒロインを前に、何か感じてる?)


 レオニール様はふとわたしのほうに視線を戻した。


「エル嬢。彼女と仲良くしてあげてね。君なら、きっとできるから」


 その声音は優しいのに。

 なぜだろう、背筋がひんやりする。


「それでは、また後で」


 優雅に会釈して去っていくレオニール様。

 その背中を見送りながら、わたしの胸はざわめいていた。


(これが……エノリス・ヴィエラ様。そして、彼女を取り巻く“愛され体質”の力……)


 運命が静かに、確実に動き始めていた。

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