Episode 2 闇がありそうな、もう一人の“王子”
入学式を終え、講堂の重い扉が開かれると、人の波が一斉に流れ出した。
その中心で、わたしはアレクシス様、ルカ様、お義兄様と共に歩いていた。
「エル、歩き疲れていませんか?」
ルカ様がいつも通り丁寧な声で尋ねる。
「大丈夫よ。心配ばかりされてたら、わたし……」
「――ごめん、少し通るね」
ふと、柔らかな声が背後からかかった。
次の瞬間、わたしの視界に金色の光が差し込む。
振り返った瞬間、呼吸が止まった。
太陽を思わせる金髪、深い湖のような碧眼。
年若いのに完成された、王族特有の気品。
「驚かせちゃったなら、ごめんね。僕、レオニール・クリオス・トリアスト。――トリアスト王国の第二王子だよ」
微笑む彼は、まるで天使のようだった。
誰もが見惚れるような完璧な笑顔。
けれど――その瞳の奥に、一瞬だけ酷く冷たい影が過った気がした。
「……レオニール。こんなところで何をしている」
アレクシス様が低い声で問いかけた。
「兄上。僕も生徒だから、講堂を出るのは普通のことだよ? 中等科の生徒会長なんだから」
「そういう意味ではない」
アレクシス様がわずかに眉をしかめる。
兄弟の間に張り詰めた緊張が走り、わたしは思わず息を飲んだ。
「あなたが……第二王子殿下……?」
わたしは恐る恐る言葉を紡ぐ。
「うん。……君がエルリウール・アルカ・ショアン嬢だよね。ずっと会いたかったんだ」
「え、わたしに……?」
「君、有名だから。――“アレクシスの婚約者で、誰よりも美しいお嬢様”って」
くすりと笑ったその表情は、柔らかくて、眩しくて。
でも、どこか引っかかる。
まるで“用意された笑顔”のように完璧すぎる。
「……レオニール殿下。エルに近づきすぎではありませんか?」
ルカ様が淡々と制する。
「そう? ごめんね。――でも、君は近づかれたくない?」
レオニール様はそっと首を傾げ、わたしを見つめる。
その碧眼が、底なしの湖のように深い。
(……この人、怖い? いいえ……なんだろう、吸い込まれそうだわ……)
「レオニール殿下、エルを困らせるな」
お義兄様が前に出る。
「えー、困らせてるつもりはないけど? 僕、ただお話したいだけなんだよ」
「レオニール」
アレクシス様が鋭く名を呼ぶ。
一瞬、レオニール様の微笑が、影を落とす。
しかしすぐに、また穏やかさを取り戻した。
「はいはい。兄上がそんな顔するなら、退くよ。またね、エルリウール嬢──いいや、エル嬢」
ひらりと手を振って、レオニール様は人混みに消えていく。
その背中を見送りながら、わたしはぞくりと震えた。
(あの笑顔の底に……何が隠れてるの……?)
まるで“触れてはいけないもの”に触れたような感覚だけが残った。
アレクシスとレオニールは母親が違います。
見た目にも結構違いがあります。
アレクシス:漆黒の黒髪。金色の瞳。通称“意地悪王子”。
レオニール:金髪碧眼。天使のような微笑み。王立エスタール学園中等科生徒会長。




