Episode 1 三人の攻略対象
王立エスタール学園――王都の中央丘に建つ、白大理石の塔と広大な庭園を併せ持つ名門校。その正門を前に、わたしは胸の奥のざわめきを押し殺そうとしていた。
──エルリウール・アルカ・ショアン。通称エル。十六歳。
そして――乙女ゲーム『貴女に一輪の薔薇を捧ぐ』における、典型的悪役令嬢にして、最後は断罪される女。
(……どうして、よりにもよって悪役令嬢なのよ……)
目覚めたときには、もうこの身体で、この名前で、そして既に決められた婚約者までいた。
婚約者は、攻略対象の一人にして、ゲームの“初期ルート最大の壁”。
「エル、緊張しているのか?」
低く落ち着いた声が、すぐ隣から聞こえる。
わたしはそちらを向く。
黒髪に金色の瞳。端整で整いすぎた王族の顔立ち。
そして、わずかに口角を上げた、その“ちょい意地悪”な笑み。
アレクシス・レナメスタ・シルル・トリアスト――わたしと同じ十六歳で、婚約者。
「べ、別に。緊張なんかしてないわよ」
「ふっ、強がりだな。私には緊張してるように見えたが?」
「……っ」
この王子、昔からわたしの反応を面白がる癖がある。
ゲームの中でも“意地悪王子”として人気だったけれど、当事者としてはたまったものではない。
そんなわたし達に、さらりと冷気をまとうような声がかかった。
「アレクシス殿下、からかうのはほどほどに。エルが困っています」
長い銀髪と、透き通る蒼色の瞳。
整った顔立ち。冷たい美貌。
──ルカ・メルジール・フォルディアス。十六歳。“氷の公爵”。
宮廷魔術師にして、アレクシスの側近。つい最近公爵家を継ぎ、若くして政務と魔術を担う天才。
ゲームではクール系攻略対象の筆頭。
「……別に、困ってないわよ」
「強がりが二度目。可愛いな、エル」
「アレクシス殿下!」
と、その時、背中を軽く叩かれた。
「まあまあ。殿下はいつも通りってことだろ?」
軽やかな笑い声。
蜂蜜色の髪を無造作に撫でつけながら、わたしの“兄”が姿を現した。
──エリオット・アルカ・ショアン。十八歳。アレクシスの側近。
血のつながりはないが、心強い――わたしの大切なお義兄様。
「エル、深呼吸。入学式で倒れたら、目立つどころの話じゃないからな」
「お義兄様まで……」
「ったく、心配してるのはこっちなんだから素直にしろよ」
お義兄様はわたしの肩に手を置き、アレクシス様とルカ様をちらりと見た。
「殿下、ルカ。エルの初日にプレッシャーかけすぎるなよ」
「心外ですね。私は励ましているつもりですが」
と、ルカ様。
「私はただ事実を述べただけだが?」
と、アレクシス様。
「お前らまとめて面倒なんだよ!」
お義兄様の言葉に、思わず噴き出してしまう。
――その瞬間、わたしは少しだけ悟った。
悪役令嬢に転生したとしても。
ゲームの筋書きがどれほど残酷であったとしても。
この三人がそばにいる限り、きっと“断罪エンド”だけは避けてみせる。
わたしは胸を張り、正門へと歩き出した。
(さあ、始めましょうか。わたしの――第二の人生を)
作者の私は、ルカ様推しです。
あと、このあと出てくるヒロインも可愛いです。
ちなみに、エルの前世は、ルカ様推しだったそうです。
でもエルは、多分そのこと忘れてるし、一生思い出しません。
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