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Episode 25 若かりし頃のハイアス

 結局、ハイアス先生の圧が怖すぎて反省文を書くことにしたわたしは、エノリス様と、震える手で原稿用紙に文字を走らせる。

 アレクシス様、ルカ様、お義兄(にい)様は机の下で縮こまり、まるでゴムまりのように縮小コピー状態。


 ハイアス・ノーズリーヴは、女子二人を見下ろし、男子三人を睨みつけた。

 その視線は鋭く、雷を落とすようでありながら、心のどこかで遠い記憶に触れていた。


(……私が、こんな性格に“戻った”のは……あれがきっかけだったか……)


 ◆ ◆ ◆


 ――十年前。


 当時のハイアスは、まだ若い教師だった。

 冷静に見えるが、心の中には生徒への理想と現実とのギャップに対する苛立ちが渦巻いていた。

 学園は華やかで格式高いが、生徒の自由奔放さや無責任な行動は、若きハイアスの心を何度も打ち砕いた。


 ある日のこと。

 授業中、数名の生徒が机の上でふざけ、廊下で大騒ぎしたのだ。

 若きハイアスは注意を試みたが、無視され、冷やかされる始末。


 その瞬間、若き日のハイアスは、自分でも抑えきれない感情に突き動かされ――


「──⋯⋯黙れ、この馬鹿共がァァァッッッ!!!!」


 教室中に怒声を響かせた。

 生徒たちは一斉に静まり返り、縮こまる。

 しかし、その瞬間、心の奥底に居た小さな自分が、揺さぶられるのを感じた。


 そんなとき、一人の女子生徒が手紙を差し出してきた。

 筆跡は揺れ、しかし真摯さが伝わる文字だった。

 そこにはこう書かれていた――


『先生、怖いと思ったけど、私は反省します。授業を邪魔した自分を、きちんと書き記します』


 若き日のハイアスは、その手紙を握りしめ、胸が締め付けられるような感覚を覚えた。

 生徒を叱るだけでは、教育にならない。怒鳴るだけでは、心は届かない。

 このとき初めて、彼女は“強さ”と“厳しさ”のバランスを意識するようになった。


 その後も十代の生徒たちは失敗を繰り返し、ハイアスは怒鳴る日々を重ねた。

 だが、あの手紙の少女の姿が、彼女に「感情のままに叱るのではなく、行動で示す」という道を教えたのだ。

 怒鳴るだけの教師ではなく、時に厳しく、時に柔らかく――そのギリギリの線で生徒を導く教師になるきっかけだった。


(……あの子がいたから……私は、今の自分でいられる……)


 ◆ ◆ ◆


 ショアン嬢とヴィエラ嬢は真剣に書いているが、やはり、王子、公爵、ショアン家の兄は真面目に書こうとしない。


(そんなに書きたくないのか? 反省文)


「……ふん、文字にして反省することも、たまには役に立つようだな」

 鋭い視線はまだ男子三人に向けられており、安心は許されない。

 教室内のカオスは依然として続く――だが、ハイアスの心の中には、十年前のあの少女の勇気が、静かに息づいていた。

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