Episode 26 高等科1-C担任教師、1-B担任教師、登場
教室のドアが軽やかに開き、別の教師が入ってきた。
「ハイアス先生、その子たち、少し離してあげてくださいよ。ボクの姪っ子が可哀想だよ」
入ってきたのは、王立エスタール学園高等科1−C担任教師、フラウシエラ・ノエル。
柔らかい微笑みを浮かべつつも、どこか芯のある雰囲気。
エノリスの叔母である彼女が来たことは、教室内の空気を少しだけ変えた。
「……ノエル先生、邪魔するつもりですか?」
鋭く言い放つハイアス。
だが、その口調には過去を思い出す微妙な響きも混ざっていた。
(……ノエル先生──いや、フラウシエラ・ノエル。十年前、あの学園祭の準備で……またぶつかったな……)
若き日のハイアスとフラウシエラは、学園内で“教育ライバル”として知られていた。
ハイアスは「叱って鍛える」、フラウシエラは「包んで導く」という方針の違いで、何度も衝突した。
そして、今日もその火花が、微かに、だが、教室内でちらつく。
その瞬間、教室のドアが再び開いた。
「おっと……これは一体……?」
王立エスタール学園高等科1−B担任教師、カイルリオス・フィフディオンが登場。
彼はルカの叔父であり、王子や公爵家の若者たちをまとめるのが得意なベテラン教師。
貴族的な威厳と柔らかな笑みを兼ね備え、教室内の緊張を一瞬で察知する。
「……ふむ、なるほど。ショアン嬢、ヴィエラ嬢、そして──アレクシス殿下、ルカ、ショアン子息、か……。いやはや、これは賑やかですね」
カイルリオスは穏やかに声をかけるが、目は鋭く、生徒たちの心臓を微妙に震わせる。
ハイアスは両手を組み、フラウシエラを睨む。
「……昔と同じか、ノエル先生。あなたは相変わらず生徒の甘やかし方が巧いですね」
「ふふ、ハイアス先生も、昔と同じく怒鳴るだけでなく、少しは心を見せたらどうです?」
フラウシエラの微笑みは優しいが、昔のライバル心を思い出させる。
ハイアスの眉がぴくりと動いた。
教室の空気は、怒り、緊張、微妙な過去の因縁の三重奏で、さらにカオス化。
その間にも、エルリウールとエノリスは必死に反省文を書き続け、アレクシス、ルカ、エリオットは縮こまったまま動けない。
「⋯⋯あなた、十年前から何も変わっていないでしょう? 少しは変わったらどうですか、“身分の壁を壊す女教師”──元ヤンの、ハイアス・ノーズリーヴ先生?」
笑顔でトゲトゲの言葉を吐くフラウシエラ。
「ノエル先生は、何をしに来たんですか?」
フラウシエラの質問を無視し、彼女にここへ来た理由を尋ねる。
丁寧な口調を心がけるハイアス。
しかし元ヤンは、いつになっても元ヤンの風格が消えないものだ。
「ハイアス先生の、地獄の反省文大会が始まったって聞いたので。しかもそこに、エノリスが巻き込まれている、と⋯⋯。救済しないわけがありませんので」
「そうですか。⋯⋯フィフディオン先生はなぜ?」
「私もノエル先生と同じ理由ですよ。一応、ルカは私の甥っ子なので」
(⋯⋯身内贔屓か。くだらん)
「──あっ、あの、ハイアス先生⋯⋯っ!」
ハイアスがフラウシエラとカイルリオスを睨んでいると、声がかかった。
「⋯⋯なんだ?」
おずおずと原稿用紙を差し出してくるのはエノリス。
──と。
「⋯⋯絶対ズルしただろ、殿下」
アレクシスだった。




