Episode 16 朝から波乱の予感しかしないわ⋯⋯
三方向から、わたしに圧が迫る。
教室の空気はピキピキに張りつめている。
(や、やめて……教室……! ここ授業あるとこ……!!)
でも三人の視線は、完全に“獲物を見る目”。
「エル。今朝の件で、どうして私を避ける?」
アレクシス様が低声で迫る。
「アレクシス殿下、その言い方は不当です。エルは私と――」
ルカ様がさらっと“私と”と言いかける。
「ルカ。お前はまず距離を取れ。朝からエルの部屋にいた話、まだ許してないからな」
お義兄様が低く唸るように言う。
(怖い怖い怖い……っ!)
しかも三人とも、小声のつもりなのに、圧が強すぎて周囲に丸聞こえ。
「え、エル様……また三人に囲まれてる……」
「うわぁ……今日も高等科三大イケメンが……」
「エル様、大変すぎん……?」
クラスメイトたちがコソコソ言い合う。
ざわざわしたクラスメイトたちをルカ様がひと睨み。
わたしはとにかく逃げようと一歩下がる――が、
ぐいっ!
三人が同時に腕を掴みかける。
(きゃあああっ!!!)
その瞬間――
「――あっ……あの⋯⋯っ!!!」
控えめな声が教室に響いた。
わたしの横で小さく震えていたエノリス様が、顔を真っ赤にして、一歩前へ出る。
「エノリス様……?」
思わずわたしは彼女を見つめた。
エノリス様は胸の前で両手をぎゅっと握りしめ、勇気を絞り出すように――
「エ、エル様が……っ、こ、困ってるので……や、やめてくださ……いっ……!!」
その声は震えている。
でも教室の誰より真っ直ぐで、痛いほど必死で。
瞬間、教室が沈黙に包まれる。
アレクシス様、ルカ様、お義兄様の三人が、エノリス様に同時に視線を向ける。
金の瞳、蒼の瞳、若葉色の瞳――王族と公爵と次期公爵が、圧を一斉に向ける。
(ひぃっ……! エノリス様死ぬわよ……!!)
と思ったが……
三人とも、一拍。
そして――
アレクシス様が──
「……困ってるのか、エル?」
わたしを見て、少し眉を下げる。
ルカ様が──
「……申し訳ありません。私は……エルが嫌がってることを望んでません」
反省の色を見せる。
お義兄様が──
「悪い、エル……声が大きかったな」
頭を少し下げる。
三人が一瞬だけ静かになった。
その原因は、一人の、小さな勇気だった。
「え、えっと……ほんとに……やめていただけたら……エル様も……嬉しいと思います……!」
最後は涙目になりながらも、それでもわたしのために言い切ったエノリス様。
(……エノリス様、すごいじゃない……)
わたしが胸いっぱいの感謝を込めて微笑むと、エノリス様はぱっと顔を赤くして、しゅばっと身を縮めた。
「ひゃっ……あ、あの……っ……わ、わたし、またっ……えへへ……!」
笑ってる。
震えてるのに必死で笑ってる。
(この子、ほんとにヒロイン……)
三人も、それぞれ微妙に引き下がり、
修羅場は一応の終息を見せた――はずなのだが、
「「「……で、エル。あとで“個別”に話がある」」」
三人同時にわたしに厳しい目を向ける。
(……結局地獄は続くのね……)




