Episode 13 「エル。君は……“どっち側”にいるんだ?」
扉の向こうには、鬼のような顔のアレクシス様が立っていた。
「……ルカ。今……お前、ここから出てきたのか?」
「ええ。エルの枕元で過ごしておりましたので」
さらり。
罪の意識ゼロ。
むしろ誇らしげ。
アレクシス様の額に青筋が浮かんだ。
「……枕元?」
声色が低く沈む。
王子としての威厳も忘れ、ただ“男”の声。
ルカ様はさらに追い打ちをかける。
「一晩中です。エルの呼吸が乱れていないか、ずっと見ていましたから」
その瞬間――
グイッ!!
アレクシス様がルカ様の胸倉を掴んだ。
「貴様……ッ!!」
「殿下、乱暴はいけませんよ」
ルカ様は余裕の笑みを崩さない。
(や、ヤバい……本当にヤバい……!!)
わたしは慌てて飛び起き、二人の間に割って入ろうとした。
けれど、次の瞬間。
「エル」
アレクシスが、怒りに震える目でわたしを見つめた。
そのままズカズカと歩み寄り──
ぐいっ。
わたしの手首を掴んだ。
「な……アレクシス様……?」
「エル。君は……“どっち側”にいるんだ?」
吐き捨てるような声。
だけど、その奥にあるのは怒りと……焦り。
「わ、わたしは……」
「アレクシス殿下」
わざとらしくルカ様が割って入る。
「エルは、昨夜……泣きながら私に縋って眠ったのですから」
「なっ……!」
アレクシス様の表情が完全に歪んだ。
「エル、そうなのか?」
アレクシス様の顔が近づく。
怒りで熱く燃える瞳。
「え、えっと、それは……!」
「……君は、私を避けてるのか?」
じり……とアレクシス様が距離を詰める。
ベッドの端にわたしが下がれば、アレクシス様が更に近づく。
「エル、逃げるな」
その声は低く震え、
そして――
アレクシスがわたしの顔を両手で包み込んだ。
「……君を守るのは、俺だろ?」
(ッ……え、近い……! ちょ、近い近い近い……っ!!)
唇が触れるか触れないか。
あと数センチで――
ガシッ!!
横からルカ様の手がアレクシス様の肩を掴み、引き剥がした。
「アレクシス殿下。その行為は……エルが“望んでいません”」
「邪魔するな、ルカ!」
「邪魔してるのは殿下のほうではありませんか? 私は、エルの従者ですので」
「貴様……! 私の側近ではなかったのか!?」
二人の視線が、火花を散らすようにぶつかる。
(ヤバい、これ……このままじゃ戦争になる……!!)
アレクシス様はまだわたしの顔を見つめたまま、息を荒くしている。
「エル。その男⋯⋯ルカではなく、私を選べ」
「アレクシス殿下。それ、脅迫です」
ルカ様が冷たく返す。
「脅迫で何が悪い。お前が相手なら、何度でもする」
アレクシスが再びわたしに顔を近づけた。
本当に触れる寸前。
(う、うわあああ……! ヤバい……ヤバすぎる……!!)
アレクシス様とルカ様が、まるで刃物のような視線をぶつけ合い、空気が完全に凍りついていた。
アレクシス様はわたしに顔を近づけ――本気でキスしようとしている。
ルカ様はその手を掴み、わたしを背に庇っている。
(やだ……これ、ほんとに、戦争……?)
そのとき――
ドガァァンッ!!!!
扉が、ほぼ破壊される勢いで開いた。
扉が破壊したような音を出したのは誰だ⋯⋯。




