Episode 12 呼吸を確認してました
翌朝。
――目を覚ますと、ルカ様がいた。
カーテンの隙間から差し込む朝日が、まぶたをそっと照らす。
ぼんやりと視界が明るくなり、わたしはゆっくりと目を開けた。
(ん……? ここ、わたしの寮室……)
寝ぼけた頭で状況を確認しようとして――
すぐ目の前に、銀の髪と、氷のように澄んだ瞳があった。
「っ!?!?!?」
「……目覚めましたか、エル」
ルカ様が、わたしの枕元にしゃがんで、覗き込んでいた。
距離は、ほとんど肌が触れそうなほど近い。
「え、え、えっ!? ル、ルカ様!? なっ、なんで……!? ここ、わたしの寮の部屋で……!」
声が裏返り、わたしは慌てて布団を引き寄せた。
ルカ様は微動だにせず、むしろ少し顔を寄せてくる。
「……昨夜、泣き疲れて眠ってしまったので…⋯。心配で、とても離れられませんでした」
さらりと言うけれど、内容が重すぎる。
「えっ……あ、あの……ずっと……?」
「ええ。一晩中、ここであなたの呼吸を確認してましたよ」
「呼吸……!?」
そんな命がけの監視みたいに言わないで……!
ルカ様はわたしの頬に手を伸ばしかけ――けれど、ぎりぎり触れずに止めた。
「……昨夜は、本当に……すみませんでした」
声がかすれる。
あの怒り狂った姿からは想像できないほど、弱い声。
「エルが……震えて泣いて……。その姿が、頭から離れなくて」
瞳が揺れている。
まるで自分を責めているように。
(ルカ様……そんな顔しないでよ……)
「ち、違うわ! わたしが無茶したからで……。ルカ様は悪くないわよ……!」
そう言うと、ルカ様はぐっと息を詰まらせ──
「……エル……」
そのまま、わたしの手をそっと握った。
指先は冷たいけれど、手のひらは温かい。
「とにかく……無事でよかった……」
わたしの手を包み込むその握り方は、もう離したくないと言っているようだった。
「ル、ルカ様……近いわ……」
「近くても、いいでしょう?」
さらっと返す。
しかも目が、完全に昨日の続きみたいに甘い。
心臓がバクンと跳ねた瞬間――
ドンドンドン!!
寮室の扉が激しく叩かれた。
「エル! 朝だぞ、起きてるか!」
アレクシスの怒鳴り声。
「エル、朝食行くぞー!?」
エリオットお義兄様まで来た。
「……」
ルカ様はわずかに眉をひそめた。
「……面倒ですね」
(え!? 面倒って言った!? 今、王子とお義兄様のこと面倒って言った!?)
「エル、答えなくて結構です。私が追い払いますから」
「そっ、それはダメよ!!」
慌てたわたしの声を聞いて、ルカ様は小さく笑った。
その笑みは――昨夜の暴走より、ずっと危険で甘いものだった。
でも止めるより早く、
ルカ様は扉の鍵に手をかけた。
そして──
ガチャッ
ルカ様、にっこり笑って。
「――どうしましたか、アレクシス殿下?」
わざと、完璧に落ち着いた声で扉を開けた。
まるで“今、一番アレクシス様が見たくない光景”をぶつけるためだけに。




