戦場⑤
軽快に駆け抜けながら、ナツキは鼻で笑う。
「へっ!余裕だな!」
足取りは軽やか、息も乱れず、まさに盤石のスタートダッシュ。
だが…その背後。
「まてコラァァァァ!!ナツキィィィィィ!!」
怒号と共に、地響きすら感じさせる土煙が立ちのぼる。
ナツキがふと振り返ったその瞬間、その視界に映ったのは赤く染まった顔面と、フロントタイヤの無い自転車をウィリーさせた地獄の使者だった。
「ぎゃぁぁぁぁ!? 顔面修羅場の雑技団が追ってくるぅぅぅぅ!!」
ナツキが腰を浮かせて加速する。足は爆速、心臓はバクバクと鼓動を加速させる。
ホタフーキもその後ろを、まるで戦場の突撃兵のごとき勢いで追う。
ハンドルをギリギリまで倒し、ペダルを踏み抜き、ウィリー走行のまま飛び越えるように段差を突破。
「追いついたぞ卑怯者がぁ!!この勝負、俺が勝って”タケミカヅチ”を俺の愛車にしてやるぅぅぅぅ!!」
「抜かせ!!ありゃ俺のモンだぜ!!ガキは大人しくユウキのケツにでも乗ってろ!!」
怒声と罵声が入り混じる。まるで二人だけの戦場…いや、二人のバカが支配する空間。
砂利を跳ね上げ、ドラム缶をなぎ倒し、二人のバトルは爆走の果てへ。
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ドローンによる追尾で2人のレースを見守っているアリサが、ボソッと呟く。
「……ありゃ、2人とも熱くなりすぎて、コースから外れとるんちゃうか?」
腕を組み、ドローン越しの映像に眉をひそめる。
ホログラム中継には、コースも障害物も映っていない。見えるのは草むら、フェンス、そして朽ち果てた団地郡やビルばかりだった。
「みてぇだな。ま、面白そうだからこのまま走らせといてみよう」
ユウキは口元を拭いながら、まだ腹の奥に残る笑いをかみ殺している。
「でもあの方向って……」
タツヤが言いかけたところで、ユリがふと立ち上がる。
「…“魔女の巣”の方じゃない?」
その言葉に、場が静まる。
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草をかき分け、瓦礫を飛び越え、二人のバカは未だに勝負を続けていた。
「お、おい!俺たち、 なんか変なとこ入ってねぇか!?」
ナツキが前を見て顔をしかめる。前方には、無人の巨大団地。
「気にすんなぁぁぁ!!勝負は続いてるんだよぉぉぉ!!」
ホタフーキはすでに理性を捨て、怒りと根性だけで自転車を操っていた。
突然、2人の走る地面が揺れ始めた。
次の瞬間、ナツキとホタフーキの目が同時に見開かれる。
ガッシャーン!!
地表から"何か"が姿を表した。
真下を走っていたホタフーキの自転車は弾き飛ばされ、そのまま地面に投げ出される。
「お、おい!大丈夫か!?」
ナツキはすぐに自転車から飛び降り、落ちたホタフーキの方へと駆け寄ると、地表から現れた"何か"に目をやる。
ドリルのような尾、そして二つの大きなハサミ…かつてナツキ達が遭遇した"サソリ型ランバート"を小さくしたような赤い怪物が、2人に向けて牙を剥いていた。
赤錆色の装甲、節足のような関節、ドリル状の尾、そして……二本の巨大なハサミが震え、ギチギチと音を立てる。
「っ、なんだコイツ…新手のランバートか!?」
ナツキは腰のホルスターからハンドガンを抜く。
だが、その手にはわずかな迷いがあった。いつものような反射的な動きではない。
(クソッ!!血刀はタツヤに預けたままだ…!!)
かすかに噛み締めた歯の音が響く。




