カゴノトリ②
無数のカプセルが並ぶ冷たい空間に、奇妙な気配が満ち始めていた。
空気が静かに揺らぎ、かすかな足音が響く。
「…そろそろ引き上げた方が良さそうなのだが」
ヒデユキが周囲を見渡しながら、低く、だが明確な警告を口にした。
「うん……これ、完全に囲まれてるね」
マントマンが笑うでもなく、声の色を変えることもなく、そう言った。
暗闇の中から、5つの影が姿を現す。
5人の女…それぞれがマントマンの読んでいた資料の"WITCH"に酷似した外見を持っている。
酷似しているが、それぞれ"年齢層"がバラバラだった。
幼児にも思える幼い少女、十代半ば…“WITICH”の資料にあった写真と同じ顔、そこから少し成長し、成人を迎えたばかりのようにも見える二十代くらいの女、白髪交じりの老婆…。
最後の個体…顔こそ資料と同じだが、首が異様な角度でひしゃげ、顔の右半分と左片腕がカマキリのように変異していた。
どの女からも表情は感じられない。まるで"魂"が無いかのように。
「……魔女の失敗作たちか」
マントマンの声に、かすかな怒りと焦りが混じった。
瞬間、老婆が突如として自身の腕を引きちぎる。
ブチッという音と共に、青黒い血液が吹き出し、それは空中で奇妙な湾曲を描いて変形し、即座に固まった。
鎌のような刃…“血の刃”となって、猛スピードでマントマンへと放たれる。
「チッ!!」
マントマンの横を、鎌が掠め、パネルに突き刺さる。
続いて、小さな少女が口を開けた。
常人には到底あり得ないほどにバックリと口が開き、白目を剥いた彼女の喉奥から、圧縮された青黒い血液が放出される。高圧のそれはマントマンの足元を狙うが、それを寸前で回避する。
特殊な素材で作られているであろう研究室の床に抉られたような傷が刻まれる。
マントマンはふとヒデユキの方に目をやる。
「ヒデユキ!!危ない!!」
変異体のひとつ――カマキリの腕を持つ個体が、ヒデユキに飛びかかる。
その鎌が彼の左腕を捕える…が、肉が裂かれるような音はしない。
「…ふん!!」
ヒデユキのスーツとシャツが音を立てて裂ける。
その下から露わになった鋼のような筋肉。
ヒデユキは変異体に左腕を捕えさせたまま、静かに力を込める。
次の瞬間、右の拳が異形の顔面目掛けて振るわれた。
バシュッ!という音と共に、変異体の頭部が砕け、青い血飛沫が宙に舞う。力なく崩れ落ちる変異体を踏み越え、ヒデユキはなおも周囲を睨む。
背後からは成人型と若年型のふたりが、まるで合わせたかのようなタイミングで、左右からヒデユキを挟み撃ちにしようと迫る。2体の腕には、先程老婆型がマントマンに向けて放った"血の鎌"が握られている。
「むぅん!!」
身体を捻り、ギリギリでの回避。
一歩でも遅れていれば、その背中に深い傷が刻まれていたはずだ。
マントマンは肩を竦めながらジャケットを脱ぎ、ショルダーホルスターから引き抜いた銃を構えた。
「失敗作でもこのレベルか…オリジナルは、さぞ恐ろしい"魔女"なんだろうなぁ」
ヒデユキが短く息を吐き、袖の残骸を引き千切った。露わになったその腕が、赤く、熱を帯びている。
「…無傷では帰れなさそうだな」




