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カゴノトリ①

--


マントマンとヒデユキはR.W本社ビルにある研究棟を歩いていた。

カツン、カツンと革靴の音が白い廊下に響く。休日のビルはどこか異様に静まり返り、空調の微かな唸りだけが生きていた。


「…休日とはいえ、これほどにも人の気配が無いなんてねぇ」


マントマンは片手をポケットに突っ込んだまま、何気なく研究室の自動扉をくぐる。

その手にはワタナベの名が印字されたIDカード。

この日の潜入の為にワタナベから"借りてきた"物だ。

後ろから続くヒデユキは、無言のまま部屋の空気を読み取る。

乱れた書類もなし。備品も整理されたまま。確かに休日らしい静けさだった。


「さーて、内部情報を提供してくれた子が言ってた、"ごく一部の人しか入れない秘密の部屋"は…っと」


部屋の奥。何の変哲もない木製の棚をマントマンは指差す。スチールやセキュリティドアではなく、妙に旧世代的なその棚。


「たぶん、ここかな?…凄いよねぇ。

普通の研究者たちもすぐ隣で仕事してるのに、こんな場所に“地雷”を埋めとくなんて」


ヒデユキは黙ってうなずき、棚に手をかける。

本来なら何重もの認証を通すはずの棚。だが、その厚みすら意味をなさない。


ズズズッ


丸太のような両腕が、棚と壁の隙間を無理やりこじ開ける。

まさに、“筋肉のマスターキー”。


棚の奥から金属の壁が現れ、それは音もなくスライドし、隠されたエレベーターが姿を見せた。


--


エレベーターが静かに着地する音を鳴らし、その扉が開く。

二人が足を踏み入れた先に広がるのは、鈍い照明に照らされた実験施設。

無数のカプセルが並び、赤黒く点滅する表示灯が、まるで誰かの心音のように脈打っていた。


「……随分と大掛かりな墓場だ」

ヒデユキはそう呟くと、カプセルの前で腕を組む


周囲を見渡すマントマンの目が、一枚の壁際パネルに吸い寄せられる。


そこには、何枚もの資料がピン留めされていた。


中央には1枚の古い写真。

そこに写されていたのは、セーラー服を着て笑う1人の少女の姿。


写真のすぐ横に貼られていた資料には、こうあった。


「なになに、【WITCH-00/Code XIA】

2012年、災害時に死亡した個人。

ランバートの血液を直接浴びたことで変異。

本人証言による状況では当時の自衛隊に保護され、民間人と同様にコールドスリープ処理。

2048年:初覚醒時に暴走。

コールドスリープ対象者へのランバートDNA導入実験により、膨大な血液を“吐き出した”ことで施設が壊滅。旧世代人及び施設関係者は全員死亡。この個体のみ生存した。

鎮圧部隊により再度スリープ処理に成功」


マントマンは更に資料を読み進める。


「血液を解析した結果、本個体は“人間型ランバート”に分類。無尽蔵の血液生成・自己再生能力を有し、エネルギー資源として極めて高価値。

ランバートと人間の融合が成功する事で新たな人種"新世代人"を造り出す鍵と成りうる」


資料を読み上げるマントマンの隣へと歩みを進めるヒデユキは、マントマンに向けるかのように呟く。


「……100年前の始祖のランバートが、何の目的で…どんな理由で発生したのか…結局、解明されなかった」


マントマンはヒデユキの方を振り向く。


「一つ言えるのは…今、外を徘徊してる連中は……恐らくほとんどがここで造られた人工物…"新世代"とやらを造り出す過程で生まれた失敗作だろうね」


マントマンは肩をすくめ、別のパネルに手を伸ばす。


ふと、手に取った1枚。

それを手にした瞬間、彼の手が一瞬だけ止まった。

そこにあったのは、もう一つの古びた写真と資料。

ブロンドの髪と青い瞳、白い肌にそばかす。

どこか緊張した面持ちで写し出されている、青年とも少年とも取れる若き兵士の証明写真。


そして、資料にはこう記されていた。


「【コードネーム:STEALTH】

“世界を変える最高傑作”。現在行方不明」


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