表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/89

魔女の巣⑥


--


ネオヨコハマシティの中央区――人口太陽の光が整然としたガラス張りの高層ビル群を照らし、足元のタイルさえも上品に光る。

その中を、二人の男が歩く。


ひとりは、完璧な仕立てのスリーピーススーツに身を包んだ男。

本来なら軍服とマントが定番の“マントマン”が、この日だけは違った。

サングラスを外し、綺麗にセットされた髪を風に揺らしながら歩くその姿は、まるで旧時代の映画から抜け出した俳優のよう。


すれ違う女性たちが一様に振り返り、目を奪われる。

中には、連れの男の腕を放してまで見惚れる者もいた。


その背後、巨躯の男が黙ってついてくる。

こちらはサングラスをかけ、身体にぴったりと張り付いたスーツの下から、鍛え抜かれた筋肉の厚みが滲み出ていた。


…ヒデユキだ。


スキンヘッドが反射光を跳ね返すたび、周囲の視線が本能的に距離を取る。

傍目には、ただの要人とボディーガード。だがその実、どちらもただの男ではない。


「今日は随分とめかしこんで来たな」


「今日は“上級国民”って設定だからね〜。軍服のままじゃおかしいだろ?」


マントマンは口元だけで笑って、正面のビルを見上げた。


そのビル…R.W社の本社。

この街において、最も人目につく場所であり、最も秘密が隠されている場所でもある。



--


受付カウンター前


「……えーと、“タナカ”様、でしたよね?」


受付嬢が端末を操作しながら顔を上げる。


「申し訳ありませんが、こちら関係者以外の立ち入りは……」


「あれぇ? ワタナベって人から見学の許可が出てたと思ったんだけどなぁ」


マントマンが首を傾げ、少しだけ身を乗り出す。

わざとらしい素振り。けれど、その顔は本物だ。


「…せっかく、見学のあと…お姉さんとお茶でもできるかなって思ってたのに」


受付嬢が息をのむ音が聞こえた。

ほんの数秒、視線が彼の紫色の瞳に吸い込まれ、沈黙が支配する。


「ダメならしょうがないか、じゃあね!」

と、踵を返しかけた彼の背に、慌てて声が飛ぶ。


「あっ! 行かないで!……じゃなくて! こ、こちらの手違いでした!どうぞお入りください!」


--


「……あまり女性を誑かすんじゃない」


エレベーターホールに向かう途中、ヒデユキがぼそっと言った。


「俺は軍人だよ? 戦場で使えるもんは、なんでも使うさ」


肩をすくめて、マントマンは鼻で笑う。


その背後からは受付嬢たちの会話が少し聞こえる。


「……ねえ、あの“タナカさん”って人……すっごいイケメンだったね」


「うん……なんかこう、現実感ないというか……まるで“作り物”みたい……」



マントマンは、静かに呟いた。


「……作り物、ねぇ」


それは、誰にも聞こえないほどの声。

鏡張りのエレベーターに映る自分の姿を、どこか他人事のように見つめながら、ほんの少しだけ目を細めた。


「……正解っちゃ、正解だね」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ