魔女の巣⑤
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雀の鳴く声が朝の空気に溶けていく。
2012年、あの日の朝。制服のリボンを整えながら「いってきます」と言って笑った姉の姿。
タツヤは玄関先で「いってらっしゃい」と小さく手を振った。
その数時間後、世界は音を立てて崩れた。
あの崩壊の日。
瓦礫で埋まった街、跋扈する異形…そして息もできないほど血の匂い。
タツヤはユリの手を掴んで、必死に駆けていた。
悲鳴とサイレンが遠く近く、耳に絡みつく。
何もかもが終わったようなあの街の記憶。
その中に、ノイズのように割り込む声。
「タツヤ…生きて…」
女の声。それは……
「──っ!」
タツヤは息を吸い込みながら飛び起きた。
全身が汗ばんでいる。息が荒い。
ダストハイブの寄宿舎、ベッドの上…夜の冷えた空気に包まれた部屋。
「夢か……」
そう呟くと、そっとベッドを降り、ウォーターサーバーに歩み寄る。
プラスチックカップに注がれた水を一気に飲み干すと、わずかに落ち着いた。
「っし、交代の時間だぜ、タツヤ」
眠たげな声。入り口にはナツキが立っていた。
目をこすりながら、大きくあくびをする。
「ねみぃ…やっぱ夜間警戒ってかったりぃよなあ」
「あ、あぁ……お疲れ。ゆっくり休んで」
ナツキとすれ違いながら、タツヤは観測塔へと向かった。
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場所は変わる。HG住宅の奥、誰も近づかぬ未調査区画…通称、魔女の巣。
その廃墟にて、数人の兵士たちが気配を殺しながら進んでいた。
着ているのは、世界解放戦線の制式戦闘服。顔を覆うガスマスク、手には重火器。
彼らの照準の先には、一人の女。
無言で立ち尽くすその姿を前に、兵士の一人が低く囁いた。
「ターゲットを包囲。……お偉いさんから、生け捕りにしろって言われてる。“ウィッチ”で間違いない」
「生きてりゃ、どんな状態でもいいらしいぜ」
「……ヨダレが出るほどの美人だな。なぁ、マジで“生きてれば”いいんだよな……?」
じりじりと包囲を狭めながら、別の兵士が下卑た笑みを浮かべる。
その瞬間。
ザンッ
何の予兆もなく、一人の兵士の首が宙を舞った。
「なっ…!?」
残った兵士たちが慌てて銃を構える。
その場に立っていた女…シアは、笑った。
わずかに残る人間らしい温度と金属がきしむような、冷酷な”音”が混ざった声…まるで、ランバートの咆哮のように。
「っ……くそっ! 生け捕りは無理だ!! 撃て!!」
指示が飛び、アサルトライフルが一斉に火を噴く。
しかし、銃弾はシアの体に届く直前、空中で止まる。
空気が赤く染まる。
それは血のようでいて、霧のようでもある。
シアの体を覆う“赤い霧”が、全ての弾丸を無力化させた。
「ば……化け物がぁぁぁ!!」
兵士たちは絶叫しながら引き金を引き続けた。
だが、その銃弾は全て霧の中で静かに失速し、床にカランと転がるだけだった。
そして、霧が形を変えた。
鎌。
無数の赤い鎌が、血の渦から生まれ、シアの周囲を舞う、それはまるで、“血の処刑鎌”。
「やめ…うわぁぁああああああッ!!」
叫び声とともに、兵士たちは一人、また一人と肉片に変わっていく。鎌が再び霧へと姿を変え、それが肉片に触れた瞬間、骨すら残さずに消えた。
あたりには、凄惨なまでの血溜まりと、沈黙。
ただ一人、その中心に立つ女。“魔女”と呼ばれた存在…。
その顔に浮かぶのは、狂気を孕んだ楽しげな笑みだった。




