魔女の巣④
「まぁ、タバコくらい大した問題じゃねぇよ」
ユウキが肩をすくめながら言う隣で、ナツキは真剣な表情で首をかしげた。
「……でもよ、タバコって血が汚れちまうだろ?…あ、いや…!決してシア様の血が汚いなんて事は…!」
なぜか敬語になりながら、目を泳がせて慌てふためく。
タツヤは2人のやり取りに苦笑しつつも、内心では拭いきれない違和感を覚えていた。
懐かしさはあった。記憶にある姉の面影も、声のトーンも、ふとした仕草も確かに“シア姉ちゃん”だった。
けれど…
(…なんだろう、この感じ)
年齢を重ねたせいだけではない。見た目の変化や嗜好の問題でもない。最も気になったのは、彼女の"瞳"だった。
あの頃は柔らかな焦げ茶色だったはず。けれど今のシアの目は、どこか赤みがかって見える。
LED照明のせいか、光の角度の問題か…それとも別の何かなのか…。
黒と赤が混じり合うような、その色。
まるで“終わった世界の空”を思わせる、不穏で美しい輝き。
「……さ、そろそろ帰ってくれる?」
シアの声が場の空気を切り替えた。
優しげな笑みを浮かべながらも、その言葉の裏には明確な“拒絶”の気配が含まれていた。
その無言の圧に、ユウキとナツキも素直に頷く。
タツヤは名残惜しげにもう一度振り返り、そっと手を振った。
「……またね、姉ちゃん」
その声に応えるように、シアも小さく手を振った。
その微笑みは、どこか無理をしているように見えた。
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全員が部屋を出て、静寂が戻る。
廃墟の研究室に、わずかな電力で灯るランプの音だけが残る。
シアはしばらく扉を見つめていたが、ふと崩れるように壁に背を預け、片手で口元を覆った。
「……っ」
その指の隙間から、濃い血液が滴る。
真紅の液体が喉から溢れ、床に滴る音が微かに響いた。
そして、苦しそうに息をつきながら呟いた。
「……良かった……あの子の前でだけは……制御、できた……」
血に濡れた唇がかすかに震える。
その目に、先ほどまで見せていた笑みの影はない。
その瞳は、確かに赤かった。




