魔女の巣②
薄暗い廃墟の奥。突き当たりの壁には、場違いなほど無機質な銀の扉がそびえていた。
まるで、タツヤたちが初めて目覚めた、あの研究施設の隔離扉のように。
「……ここも、“旧世代人”たちが目覚めたシェルターの残骸……なのかな?」
ユリがそっと扉に手を置く。冷たい鉄の感触と共に、ほんのりと電力の通った感触が指先に伝わった。
「……ってことは、未確認エリアっていうより、ただの“用済み”な区画ってことかもな。よし、ナツキ、引き返そ…」
言いかけたタツヤの言葉を無視して、ナツキはさっさと扉の隙間に手をかけ、無理やりこじ開ける。
「……ったく……」
呆れたように眉を寄せるタツヤ。
軋む音と共に開いた扉の奥は、ほのかに人工灯の残光が揺れていた。電源系統は生きているのかもしれない。
「ユーウーキーくーん!! あーそびましょー!!」
ナツキが部屋の奥に向かって大声で叫ぶ。下品なほどに楽しげな声。
「うるせぇぇぇ!!!取り込み中じゃボケェェェェ!!!」
即座に響く、ユウキの怒声。どうやら本当にいたようだ。
「アイツ…ココにエロ本隠してんだろ」
ナツキは得意げに続けた。
「昔、俺とユウキで体育倉庫に大量のエロ本持ち込んで、“パラダイス”を作ってたんだ。そして恐らくここは新たなパラダイス…!!水くせぇじゃねぇか、なんで俺に相談してくれねぇんだよ!ユウキィ!」
「……最低……」
ユリがぼそりと呟き、1歩ナツキから距離を取る。
ナツキは笑いながら中へと進み、それを仕方なく追いかけるタツヤとユリ。
部屋の奥へ、懐かしいような、それでいてどこか不気味な空気が流れていた。
そして、室内。かつては観察室だったのか、ガラスのパネルが砕け、機材が乱雑に転がるその場所に…彼女はいた。
ノースリーブのシャツに、肩を隠すほどの前髪。そして、後ろで束ねた黒髪のポニーテール。
まるで空気の淀みさえ静めるかのような気配を纏った、黒髪の美女。
彼女の隣で、ユウキが妙にデレた顔をしていた。普段の彼からは想像できない、だらしない笑顔で。
「……あっ……」
ナツキはピタリと動きを止め、急に姿勢を正すと、髪を手櫛で整える。
「はじめまして。私は九条ナツキ……115歳、独身でございます」
まるで王子様のような丁寧な口調で深々とお辞儀をした。
「始まった…」
ユリはうんざりとした表情を浮かべ、視線を逸らす。
その横で、タツヤは何かを思い出したように女性を見つめたまま、言葉を失っていた。
目の前の黒髪の女性…その顔に、心のどこかで封じていた記憶が蘇る。
「……姉……ちゃん……?」




