魔女の巣①
ネオヨコハマシティの騒乱から数日が経ったある日の事。
重たい朝靄がHG住宅を包み込む中、タツヤ、ナツキ、ユリの三人はHG住宅の未調査区域とされるエリアの入り口に立っていた。
「……現地民すら知らない場所ってなんだよ…どんだけ広いんだ、ここ…」
タツヤがボヤく。地図には載っていない路地、放棄された建物が並ぶ細道。周囲はまるで別世界のようだった。
「あー、でもな。地元の奴らも“絶対に近付かない場所”ってのがあるらしいぜ?」
ナツキが歩きながら足元に転がる瓦礫を蹴飛ばす。
「ホタフーキくんが言ってた……“魔女の巣”、かな」
と、ユリがぽつりと呟く。
魔女の巣…それは子どもたちの間で囁かれる、ありふれた怪談話。
赤い瞳の魔女が棲んでいるとか、赤い幽霊が彷徨っているとか……誰も真剣に取り合わない、けれど誰も近付こうとしない。
「……子供じみてるけど、確かにちょっと気になるな」
タツヤが首を傾げる。するとナツキはニヤニヤと笑いながら話し出す。
「なぁ、魔女って美人なのかな?ほら、俺らの時代じゃさ、歳の割に綺麗な人のこと“美魔女”って呼んでたろ?」
「……そればっかり」
ユリが少しだけ呆れたように返した。
ふと、前方の建物の隙間から、何かが動いた。
キョロキョロと辺りを見渡しながら、廃墟の奥へと入っていく人影があった。
「……ユウキ?」
タツヤが目を凝らす。見間違いではない。いつもの服の上から真っ黒なフードを被り、妙に目立つ歩き方。
「面白そうだから、ついてってみようぜ」
ナツキは一歩前に出てそう言った。
廃墟の中へと足を踏み入れる三人。
内部は湿気と腐臭、そして何とも言えない重たい空気に包まれていた。壁に染みついたカビが光を吸い込み、足音だけが反響する。
「……ねぇ、引き返さない……?」
ユリが少し怯えたように声を漏らす。
「ああ……ユウキが来てるんなら、未確認エリアじゃなさそうだしね」
タツヤも慎重に周囲を見渡す。戦闘服の背に、汗がじっとりと張り付いている。
だが、ナツキの様子は少し違った。
「……いや、こりゃあなんかあるぜ、絶対。 」
いつもより少し真面目なトーン。軽口を叩かず、視線はまっすぐに廃墟の奥を見据えていた。
タツヤはため息をつきながらも、その後に続く。




