最前線④
ランバートの群れが、次第に数を減らしていく。
兵士たちの動きにも安堵が見え始めた、ほんの一瞬…
「……なんやあれ、データにあらへんで……」
アリサの言葉に、空気が凍りつく。
荒野の地面が盛り上がり、ひび割れ、炸裂する。土砂と瓦礫を撒き散らしながら出現したのは、地表を“泳ぐ”巨大な影。
それは、鮫のような姿をしたランバートだった。
全長10メートルを優に超える、黒光りする鱗に覆われた巨体。まるで地面そのものを引き裂くかのような進み方で、地上を滑るように疾走していた。
ユウキが前のめりになる。
「おいおい、あんなの聞いてねぇぞ!?
とりあえず行くぞナツキ!」
ナツキもバイクを操り応じるが、走るたびに激しく揺れる地表により近づくことすらままならない。
「クソっ!地面が…荒れすぎてバイクじゃ無理だ!」
タツヤは遠距離から機銃を撃ち込む。無数の弾丸が正確に鮫型ランバートの胴体に降り注ぐ。
だが。
「弾が通らない!?嘘だろ…!?対物機関銃の弾丸でもこれかよ!!」
ユリは一瞬、口元を噛みしめる。
(あんなのが街に向かったら……いくらバリアがあっても、危ない…!)
次の瞬間、恐るべき巨影が、まるで獲物を見つけたように突進を始める。
向かう先は、防衛部隊の中心。
「…来るぞ!!」
グラディエーターの叫びが響く中、皆が構えるよりも早く“それ”が跳ね上がった。
グシャアアアァアッ……!!
信じられない音と共に、10メートルを超える鮫型ランバートの身体が、まっすぐ縦に裂かれた。肉片と青黒い体液が辺りに降り注ぎ、巨大な死骸が地面に沈む。
「……え?」
誰かが呟く。
その肉の裂け目の向こうに、一本の影。
「遅れてごめんよぉ〜……って、もう終わってんじゃん?」
そこには、気だるげに手を振るマントマンの姿があった。
マントの端が、風になびいている。
各兵士の通信機に、制御された声が流れる。
「こちらネオヨコハマ管制塔。敵勢力の鎮圧を確認。繰り返す、敵勢力の鎮圧を確認。戦闘終了」
静寂のあとに、歓声が広がる。
誰かが武器を空に掲げ、誰かが倒れ込むように座りこむ。歓喜、安堵、そして生きているという実感。
アリサは駆け寄ってきた。疲弊しているユリを抱きしめながら、満面の笑みで叫ぶ。
「守ったでぇ!自分の命も、みんなの命も!」
ユリはその言葉に、はっと顔を上げる。
その目は戦場ではなく、あの、煌びやかなネオヨコハマシティを見ていた。
そして小さく、けれど確かに頷く。
「……はい」
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ネオヨコハマシティの巨大なスクリーンに戦場の映像が流れ、ニュースキャスターの声が上品なカフェのガラス越しに届く。
「本日未明、旧みなとみらい地区にて前例のない規模のランバート襲撃が発生しました。未確認の巨大個体、鮫型ランバートの出現により、一時は戦線の崩壊も懸念されましたが、現地部隊の尽力により被害は最小限に留まりました」
スーツ姿の男たちが、映像を一瞥しつつもすぐに視線を戻す。
ドレスを着た女性たちは興味なさげにカクテルを口にするが、ふと映像の中に映った1人の少女の姿に、手が止まった。
煤と泥にまみれ、歯を食いしばって敵と対峙する少女。
その目には怯えも虚無もない。ただ、"守る者"としての意志だけが灯っていた。
「……あの子、さっきまでそこにいた若い軍人の子じゃない?」
「戦ってたの……私たちのために?」
呟きは、やがてさざ波のように街中に広がっていく。
「ランバートって、外の人たちだけの問題だと思ってたけど……」
「違う…そもそもあんな奴らがいなければ…俺たちは……」
「今までの平和って…誰が支えてたんだろう……?」
煌びやかな街の片隅で、初めて芽吹いた”感謝”と”現実”。
それはまるで、分厚いガラス越しの温室に差し込んだ、冬の陽射しのように脆く、しかし確かな変化の兆しだった。
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HG住宅地、廃墟区域の静寂に包まれた一角。
かつての実験施設。その薄暗く、苔むした廃墟の奥で、ひときわ白い煙が揺れていた。
女は無言でタバコをくゆらせながら、スクリーンに映し出された戦闘映像を眺めていた。
モニターの画面がチカチカと明滅し、時折ノイズが走る。
「……まだ終わらないか、世界は」
唇の端を歪め、女はゆっくりと笑う。
その瞳の奥には懐古も、怒りも、絶望もない。ただひとつ“興味”だけが残っていた。
「じゃあ、私もこの世界と"もう一度"遊んでみようかな」
背後に並ぶ、開かれたカプセル群。
女の手が、一枚の古びた資料に触れる。
「PROJECT: WITCH-00」




