最前線①
ネオヨコハマシティの地下ゲートを抜けると、空気が一変した。
人工の青空に彩られた“楽園”とは違う、見慣れたくすんだ赤色の空が広がる。
焦げた鉄と油の匂い、地響きのような遠雷の音…そこは、日常の向こう側だった
旧みなとみらい地区…かつて観光と文化の中心地であったこの街は、今や最前線の防衛拠点。
その出入り口、"楽園"と"地獄"を繋ぐ境界線でユリとアリサを待っていたのは、歴戦の兵士たち。
その中心に立つ男の姿が目に入った。
漆黒の軍服、鋭い視線、眼帯に刻まれた古傷…。
ただ立っているだけで、空気が一瞬で“戦闘”へと塗り替わる。
「来たか……!」
男は兵士たちに短く指示を飛ばし、即座に戦闘準備へと移らせる。
その堂々とした立ち居振る舞いには、数多の戦場を潜り抜けてきた重みがあった。
アリサが軽く息を整えると、コードネームで名乗る。
「“ハッピープロペラ”、到着致しました〜!」
その軽い言い回しとは裏腹に、しっかりと戦闘態勢の眼光を覗かせる。
ユリもすかさず続く。
「クレリック、到着しました!」
敬礼するユリに、アリサは小声で囁く。
「戦場で上官に敬礼したらアカンよ。どこで誰が狙っとるかわからへんからな〜」
悪戯っぽく片目をつむるウィンクに、ユリの緊張も少し和らいだ。
眼帯の男…コードネーム“グラディエーター”と名乗る男が重々しい声で指示を下す。
「私はここの現場指揮を担当するグラディエーターだ!
ハッピープロペラ、ドローン操作で味方を援護してくれ! 今日は数が多すぎる……!
ダストハイブへの応援要請は、クレリック!お前に任せる!」
2人は声を揃える。
「ハッ!」
そして一気に駆け出す。
アリサは腰のポーチから、小型のドローンを5機展開。
白く光るブレードと複眼カメラが起動音を響かせながら浮かび上がる。
彼女の操作方法はユリとは違う。
ヘッドセットも、コントローラーも無い。
彼女の脳波と共鳴する特殊チップが埋め込まれたドローンに直接命令を下す。
5機は迷いなく空へと散り、味方兵士たちの上空で編隊を組む。
防御、索敵、陽動、支援射撃…すべてが流れるように展開されていく。
その技術は世界でただ一人、アリサにしか扱えないものだった。
「……すごい……」
ユリは思わず見とれてしまいそうになるが、すぐに我に返る。
彼女にも、果たすべき任務がある。
ユリは自身のヘッドセットからバイザーを展開し、通信回線を確保。ダストハイブ本部とのリンクを確立していく。
「こちらクレリック……ダストハイブ、聞こえますか? 繰り返します、ネオヨコハマシティ防衛ライン、敵集結中。至急、支援部隊の派遣を求む!」
その声は、以前のように震えてはいなかった。
守りたい世界がある。
痛みを知ったからこそ、誰かを守る意味を、今のユリは知っている。
彼女の声は、戦場の混沌の中にあって、確かに未来へと響いていた。




