ラクエン②
ネオヨコハマシティ。
旧時代の青空がLEDパネルに広がるドームの下、人工太陽が柔らかな陽光を降り注いでいる。
巡回任務のさなか、ユリは煌びやかなガラス張りのショッピングモールの前で懐かしい声に呼び止められた。
「……ユリちゃん? ユリちゃん、だよね!?」
振り返ると、そこに立っていたのはかつての…旧時代の友人。
だが、その姿はユリの記憶にあるものとは、まるで別人のようだった。
繊細なレースのブラウスに、細やかな宝石が散りばめられたアクセサリー。
艶やかなローファーの足元、整髪料の甘い香り。
どこか舞台衣装めいた華やかささえあるその装いは、戦地で泥にまみれるユリたちのそれとは、まるで別の世界の人間のものだった。
「……久しぶり。よかった、生きてたんだね」
ユリは微かに笑ったが、その声はどこか遠かった。
「ユリちゃん……それ、軍の制服?軍人になったの?」
問いかけに、ユリはただ黙って頷く。
その答えに、友人は一瞬だけ言葉を失い、やがて、理解できないといった顔をした。
「どうして? 私たち、"特別"に選ばれたんだよ?
わざわざそんな危険な道を選ばなくたって……ここで、ちゃんと"守られて暮らせる"のに」
その言葉に、ユリは返す言葉を見つけられなかった。
「ねえ、やめよう? そんなの。
こっちで一緒に暮らそうよ。戦ったり、犠牲になったりするのは……それこそ“現代人”の役目でしょ?」
友人の手が、ユリの手をそっと取ろうとする。
その仕草には優しさがあった。けれど、その言葉の奥には、無意識の傲慢が潜んでいた。
“自分たちは守られる側であるべき”という当然の前提。
“痛み”や“リスク”は、どこか別の人間が背負うべきだという思い込み。
「ちょ、困りますって」
その空気を切り裂いたのは、アリサの声だった。
軽い調子のようでいて、その目元には鋭い警戒の色が宿っている。
ユリの腕をさりげなく引き寄せ、間に立つ。
「何よ……現代人のくせに」
その一言。
ユリの中で、何かが音を立てて崩れた。
手に触れたぬくもりが、一瞬にして冷たく変わる。
彼女は、何も言わずにその手を振りほどいた。
「……っ」
そして駆け出す。
青空の下、穏やかで笑顔のあふれるこの“人工の楽園”を、まるで追い出されるように。
「ユリちゃん!? ちょ、待ってや〜!」
慌てて追いかけるアリサの声が、街のざわめきの中に溶けていく。
青い空の下。
誰もが羨む、完璧に管理された楽園。
だが…ユリの胸に残ったのは、冷たい違和感と、かすかな痛みだけだった




