風に④
帰還したホタフーキたちは、バイクのタイヤを砂で少し汚しながらHG住宅の門をくぐった。
「ったく、ひでぇ目にあったぜ…」
ユウキがバイクのハンドルに腕を預けながら、ぐったりとつぶやく。
「でもよホタフーキ、お前はマジでナイスだったな!」
ナツキはユウキの後ろに座るホタフーキの頭をワシワシと撫で、続ける。
「お前がいなきゃ、俺たちもバイクも今ごろ砂漠に転がる“アート作品”の仲間入りだったぜ!」
ナツキの軽口に、ホタフーキは胸を張って得意げに笑う。
「へへっ!」
しかしその笑顔は、次のユウキの一言で凍りつく。
「…そろそろ引き上げるか。ドゥンドゥンに見つかったら…俺たちマジで顔面アート作品にされちまうぜ」
「そ、そうだね…」
ホタフーキの声が震える。
地獄の底から響くような“父親の本気”…それはさっきのアリジゴクより遥かに恐ろしい。
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玄関前。不規則に点滅を繰り返す街灯が照らし出す、見覚えのある巨体。
「……ドゥンドゥンだ……」
ユウキの顔がこの世の終わりを見たかのような力の抜けた物に変わる。
どんなものよりも恐ろしい“説教”の予感に打ち震えながら、3人はバイクを手押しして玄関へと近づく。
「……中で話そうか」
その静かな言葉と同時に、家の扉が静かに開く。
促されるまま、3人は家の中へと入る…次の瞬間
「うわぁぁぁぁぁ!!ごめんなさぁぁぁぁぁい!!!」
深夜のHG住宅に3人の絶叫が響き渡る。
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顔をパンパンに腫らし、目の下に涙を浮かべた3人。まさにアート作品…"旧時代"の美術館に飾られている油絵のような歪んだ顔へと変貌している。
ガレージの前に正座させられ、3人の前には腕を組んだヒデユキが仁王立ちしている。
その後ろには、砂で汚れたバイクが静かに佇んでいる。
ヒデユキはため息を一つ吐くと、静かに…しかし厳しい声で言葉を落とした。
「…若気の至りというものは、とてもよくわかる。だが…お前たちは無許可で外に出て、命を粗末にした。…命を持って生まれた意味を、お前たちはもっと知るべきだ」
頭を垂れる三人。
だが、ヒデユキはふぅと深く息を吐くと、ガレージのシャッターを静かに開いた。
中には埃をかぶった布が一台の車体に覆いかぶさっている。ヒデユキはゆっくりと、その布を剥がす。
そこに現れたのは、旧時代の”アメリカンタイプ”のバイク。クラシカルな曲線とメッキのフレーム、今では珍しいガソリンタンクの跡を残しながら、内部構造はブラッドエネルギーシステムによる駆動にカスタムされていた。
ヒデユキ…いや、“ドゥンドゥン”はその愛車にまたがり、キーを回す。
バルルルルン……!!
地響きのような音がガレージに満ちた。
今では忘れられた“旧世界の鼓動”が、心を震わせる。
「……私もな、若い頃は“風”になるって夢を持ってたんだ」
その声には、優しさと、どこかに熱があった。
「そして……今も、それは色褪せてなんかいない」
3人の目が、一斉に見開かれる。
尊敬と憧れと、そして何かが芽吹くような目――
ヒデユキは、笑った。
「走り、行くか?」
その言葉と同時に、仄暗い朝日がガレージに射し込む。
3台のバイクがゆっくりと並び、轟音と共に走り出す。
かつて夢を走った男と、今夢を見て走る若者たち。
HG住宅にはまたひとつ、語り継がれる伝説が生まれるのであった。




