深淵⑥
ホタフーキの家のリビングは、小ぢんまりとしながらも居心地がよかった。窓から差し込むLEDの光に、古びたソファが照らされる。
そこでナツキとユウキは、まるで“昨日の出来事”のように、"旧時代"での喧嘩話に花を咲かせていた。
「あの時の倉庫、屋根から落っこちてきたのがいてよ、バカかと思ったぜ。まさか“飛び道具”として仲間使うとはなぁ!」
「いたなァ!そんなヤツ!けどソイツ、落ちた後も普通に立ち上がってケンカ再開してたのがヤベぇよ!流石にチビりかけたぜ!」
二人で大笑い。拳でぶつかり合ってた頃から、ずっと変わらない。
その光景を、タツヤとユリは黙って見つめていた。
学校では、ナツキはどちらかというと“問題児”。一方でタツヤとユリは、“優等生”と呼ばれる側だった。
それでも、同じ時代から来た仲間のはずだった。
けれど今、ユウキとナツキが笑いながら語る“世界”は、あまりにも遠かった。
まるで別の時代。いや、別の国にでもいたかのように。
「……だからか」
ポツリとタツヤは呟いた。
“同じ世界から来たのに、違う世界の人みたい”。
ナツキに対して感じていた、訓練兵時代の違和感。その理由が、ユウキとの会話に凝縮されていた。
そんな事とは知らず
「第2のアニキって呼んでもいい!?」
と、目を輝かせながらナツキに詰め寄るホタフーキ。
「おいおい、そんなキラキラした目すんなって、照れんだろーが…」
照れ笑いを浮かべながらも、ナツキはホタフーキの坊主頭をワシワシと撫で回す。
「可愛いトコあんじゃねーか!」
微笑ましいやりとりに、場の空気が一層和らぐ。
それを見たユウキが、ニヤッと口元を歪めて言う。
「ま、やっぱ強ぇ方が“1番のアニキ”だよな?」
「バーカ。俺とお前でどっちが1番かなんて、そんなん決まるかよ」
ナツキは軽く肩をすくめて、笑ってみせた。
「……それこそ"時代"、変わっちまうぜ?」
ホタフーキが目を丸くして見上げる。彼にとって、“アニキ”とは“ヒーロー”そのものだった。
空気を読んでいたのか、読んでいなかったのか、ユリが咳払いをして話題を切り替える。
「…それより、逃げ込んだランバートの話に戻しましょう。時間が惜しい…」
場の空気がピリッと引き締まる。
日常のような、非日常のような時間は、ここで一度切り替わる。




