深淵⑤
--時は2012年に遡る
ウォン!ウォォォン……!
耳をつんざく爆音が夜の倉庫街に響き渡る。港に停められたコンテナがその重低音でわずかに揺れた。
「来たぞ……このバイクの音……」
倉庫のシャッター前。不良グループの面々がざわつく。
「てめぇら……!ここが誰のシマか、わかっててカチ込んできてんだろうなァ!?」
木刀、鉄パイプ、スタンバトン。
およそ“遊び”とは無縁な武器を持った10人ほどの男たちが牙を剥く。
だが
その視線の先、バイクのエンジンが止まり、2人の男がバイクを降りる。
一人は金髪にプリン頭、鋭い目にニヒルな笑み。
もう一人は赤い長髪に鋭い瞳。鉄パイプを担ぎ、どこか飄々とした雰囲気。
金髪の男ユウキが、指をボキボキと鳴らす。
「シマだぁ?いきがりやがって……」
もう一人の赤髪…ナツキが肩でトントンと鉄パイプを鳴らす。
「俺らはなぁ、遊びたい場所で遊ぶ主義なんだ。それだけ。ごめんちゃい!」
ペロッと舌を出してウインクする。
「こ、このガキどもぉ……やっちまえェ!!」
怒号とともに、乱戦が始まる。
10対2。誰がどう見ても圧倒的な不利。
だが、その2人は、まるで笑っているかのようだった。
「おらァ!!寝てんじゃねーぞコラァ!!立てぇ!!」
「頑張れホラ!10対2って!!戦力差5倍だよ!!ホラホラ!!」
打撃音、悲鳴、金属のきしみ。まるで“祭り”のような混沌の中、2人は獣のように暴れ回った。
ユウキとナツキ。街の不良の間では“悪ノリコンビ”と恐れられる存在。笑いながら暴れるその姿は、伝説と恐怖の両方を生んでいた。
闘うことでしか感じられなかった“生きた実感”。
歪んだ旧世界の記憶。幼き頃の自分が目を背けた現実の中で、唯一、“楽しい”と感じられた瞬間だった。
やがて、不良グループ達は2人の狂気に怖気付き、全員が退散した。
その様子を見ながら、2人は肩を並べてその場に座り込んだ。
「カーッ……さすがにキチィな、今日は……」
ゼェゼェと息を吐きながら、ユウキがポケットからタバコを取り出す。ボロボロの手で火を点け、煙を吸う。
そして、その箱を、隣のナツキに差し出した。
だがナツキは首を横に振る。
「……あと5年待っとけ」
「変なとこだけ、いい子ちゃんしやがって……馬鹿が」
ユウキはくしゃっと笑った。




