深淵①
がらんどうの廃墟に、乾いた銃声と金属音が響く。
「くっそ、あのランバート、早ぇ!!」
ナツキが悪態をつきながら崩れた歩道を飛び越える。狙うは、トカゲのような新種のランバート。
建物の壁すら駆け上がり、外皮は金属的な光沢を帯び、細長い尾で振り返ると、まるで挑発するかのように一鳴きし、その後にはもう、視界の端へと消えていた。
「……タツヤ、もう今日は追っかけんのやめとこーぜ!なんか、こっち襲ってこないしよ!」
ナツキの声がヘッドセットから届く。だがその言葉に、タツヤはスコープ越しの視線を外さずに返す。
「バカ言え。被害が出てからじゃ遅いだろ!」
ナツキは息を切らしながら返す。
「このタイプ、民間人狙う可能性低くね?」
「“低い”だけで”ゼロ”じゃねぇ!」
そのやり取りを遮るように、ユリの緊迫した声が割り込む。
「待って!あの先は……人が住んでるエリアよ!」
スコープの先、猛スピードで走るランバートが潜り込んだ先。そこには、雑草に覆われ、錆びた金属が折れ重なるように建つ巨大な集合構造――
「……あれって」
「…HG住宅だわ」
HG住宅…旧時代、かつて高級タワーマンションやセレブ居住区が建ち並んでいたエリア。だが、世界崩壊後に管理者を失い、電力も補修も途絶えた結果、建物は骨組みだけを残して崩れ、階層構造のスラムと化した。
“高級”だったはずの住宅群は、いまや犯罪者、難民、アウトロー、そして“世界の闇”に関係する者までもが暮らすという噂の坩堝と化している。
区画は複雑に入り組み、かつてのエレベーターや連絡通路が逆に侵入者を惑わせるトラップとなり、未帰還者も後を絶たない。
そして何より
国が見て見ぬふりをしている区域である。
「マジかよ……。やべぇとこ突っ込んだぞ、あのトカゲ……!」
ナツキが唾を飲み込みながら、ユリと並んでタツヤの後ろに駆け寄る。
眼前には、タワーマンションの廃墟が静かに佇んでいた。壁は剥がれ、看板には黒いペンキで“KEEP OUT”の落書き。なのに、どこかで人の目線を感じる。まるで、廃墟そのものが生きているような気さえする。
「やっぱり……入るのか?」
「ランバートがここを拠点にしている可能性もある…少なくとも、この街にどんな奴が暮らしてるのか把握する必要はある」
タツヤはライフルを下ろし、硬い声で言った。
「ここから先は…多分、ダストハイブとは“空気”が違う」




