新世界へ⑥
ダストハイブの食堂でテーブルを囲む3人。タツヤは左の頬に真っ赤な手形を残し、ナツキに至ってはランバートとの死闘よりも激しい傷を負っている。
一方でユリは、腕を組みながら「フンッ」と不機嫌オーラ全開。あまり怒ることの無いユリがこんなに怒っているのは珍しかった。
「……何食ってもあの人工レバ刺しの味しかしねぇ……」
ナツキが重たい声でつぶやいた。鼻の奥に蘇る、あの味。まさに"殴られた後の唾の味"そのものだ。
「次やったら、ワタナベさんに頼んでナツキくんだけ毎回、下半身から採血するように言っとくから」
フォークをくるくる回しながら、さらりと恐ろしい脅しを放つユリ。
ナツキのスープを掬ったスプーンがプルプルと震える。
「痛い上に恥ずかしいやつだ…」
そんな騒がしい3人のもとへ、P.Jが料理を載せたトレイをどんどんナツキの元へと運んでくる。
「いや〜若いっていいねぇ〜!ほら、タンパク質マシマシ炒飯、目玉焼き二つ!」
「なんで俺だけタンパク質過剰なんすか?」
「いろいろ足りてなかったからね〜補強ね〜」
P.Jは笑いながら腰を下ろすと、少し落ち着いた口調で話を続けた。
「今の時代…君らくらいの若い子たちは、もっとスレてるかと思ったんだよ。ああいう青春ドタバタ見てると、ちょっとほっとする」
それを聞いて、タツヤはふと問いかける。
「そういえば、僕たちはずっとここ…ダストハイブを拠点にしてるけど、他にも“街”っていうか、外の世界の都市とかってあるんですか?」
P.Jは「あるともさ」と笑って頷いた。
「俺ら現代人が統治する街はあちこちに点在してるよ。ほとんどは軍じゃなくて、傭兵やPMCに守らせてる。国の力が及ばない地域も多いからね。そういう都市では、実力が法みたいなもんさ」
「やっぱり、国家ってもう……」
「形は残ってるけど、中身はずいぶん変わったね」
P.Jは肩をすくめて続ける。
「旧みなとみらい地区にはね、新しく造られた人工島があってさ。そこには“旧世代”…つまり特権階級たちが住んでる。国が直接統治してて、かなり安全。R.W社の本社もそこにある」
タツヤは少し考え込んだ。
旧世代人…タツヤ達と同郷の人間も多いはずだが、P.Jはそれ以上は何も言わずコップの水を飲み干して話題を変える。
「で、ここからそう遠くない場所に、“HG住宅”って呼ばれるスラムがある」
「スラム……?」
「いわゆるアウトサイダーさ。文化も価値観も違う。血税からも逃れてる奴も多いし、なかには旧世代人の臓器を密輸してる連中もいるって噂もある。国は…もう完全に放棄してるよ。今さら“救う”つもりもないってさ」
P.Jの声は軽いが、どこかに重さがあった。
タツヤたちは無言でスープをすする。遠くにあると思っていた“外の世界”が、意外とすぐそこにあると知ってしまったような、そんな空気が漂っていた。




