新世界へ③
3人は採血を無事に終え、採血室から出てくる。
ナツキは怪我の影響やメンタル面でのあらゆるダメージの影響か、足取りがフラフラとしている。
心配そうに肩を貸そうとするタツヤだが、ナツキの「どうせ借りるならユリがいい」と言う言葉でピタリと腕が止まり、肩を貸すのを辞めた。
突然、ガチャリ、と採血室のドアが開く。
その隙間からワタナベがヌルッと顔を出す。
ナツキの口から思わず「ヒィッ!?」という情けない声が漏れる。
「そうそう、こんな事もあろうかとP.Jくんに頼んで浴場に最新式のリラックスカプセルを設置しておきましたので…」
そう伝えるとワタナベは顔を引っ込め、再び採血室の中へと戻っていく。
閉まる扉を横目に、ナツキは虚ろな目で呟いた。
「…今から風呂にでもするか」
「い、異議なし…」
「うん…行こっか…」
もはや同情と慰安の意味を込めて、ふたりはナツキの意見を全面的に採用した。
--浴場にて
「くぅぅぅぅぅぅ!!うぼぁぁぁぁぁっ!!」
ナツキの野太い叫びが、広い浴場に響き渡る。
あまりの勢いに湯船の波が立つほどだ。
だがタツヤは動じない。慣れたのだ。
“ナツキの入浴叫び”はもはや環境音である。
そのとき、女湯の壁の向こうから声が届く。
「ナツキくんのそれ、なんなの?」
笑うユリの声に応えるかのように
「バーさんや、湯加減はどうじゃ〜?」
と老人のような演技で聞き返すナツキ。
ユリは再び爆笑し
「もう、ちょっと辞めてよおじいさんたら〜」
と返す。
…意外とノリノリである。
やれやれ、といった表情をするタツヤ。
そんなタツヤに、ナツキが静かに耳打ちする。
「お前は気付いてねぇかも知れねぇけど、ユリ、胸デッカくなってねぇか?」
顔を赤くするタツヤ
「ばっ、バカヤロー!なんて事…」と言いかけるが、シッと指を口に当てる。
そして真剣な表情のまま浴室を隔てた大きな壁を見上げ、続ける。
「この壁の向こうに、何が広がってると思う?」
一瞬意味がわからなかったが、身振り手振りで"自分たちが裸である事"を伝えつつ、女湯の方へと指を指すナツキの動きに、何となく伝えたい事を理解する。
そして…タツヤの脳裏に浮かぶ“ユリのバスタオル姿”。鼻血がツーッと流れた。
「おいおい、貴重な旧世代の血がこんなところで無駄に流れてんぜ?」
ナツキはからかいながらも続ける。
「タツヤ…。俺は見てみたいんだ…"新しい世界"を」
その眼差しは曇りなく、真っ直ぐ女湯の壁の上を見据えていた。
…言うまでもないが、犯罪である。




